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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第二部 自治区編

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自治区編23 スピノザ防衛戦その2

 パルキアの町を解放するのは半日もかからなかった。元々軍隊も駐留していない町である。下手に抵抗しなかったおかげで町人の犠牲も少なかったようで、その点は幸いであった。


「思ったより数が少ない……主力はもう他の場所に移動してるのね」


 捕らえた自治区の兵士が言うには、ここには最低限の人数を残し、あとはすべてスピノザに向かったらしい。モニカの夢の魔法で訊き出したので真実のはずだ。 


「くそったれが。やっぱり自治区の狙いはスピノザか」


 キャッセが椅子を蹴っ飛ばして八つ当たりする。


「急いで向かいましょう」


 モニカは一台だけ装甲車を借りることにした。

 自分たちだけで先行する。そう話すとマドラスは首を横に振った。


「なりませぬ。何を勝手なことを」

「早くスピノザに向かわないといけないのよ」


「まずは周囲の状況を調べるのが先です。自治区からの応援が来るかもしれませんし、周囲に潜んでいる敵がいるかもしれません。ここでの事後処理もあります」

「それはあなたたちがやればいい。私たちは勝手にさせてもらう」


 背を向けるモニカにマドラスは呼びかける。


「待たれよ! 勝手が過ぎますぞ!」


「うるさい!」


 モニカは振り向きざまに怒鳴る。その迫力にマドラスは気圧される。


「この国の法律では【魔女】は緊急時の軍隊の指揮権を持つはず。私に逆らうなら更迭こうてつするわよ!」


 こんな強権的な物言いはできるならばしたくないが、ここは無理やりにでも押し切るしかない。キャッセのために。


「ぐ……ならば行かれればよろしい」


 マドラスは不承不承、といった感じでがえんずる。

 恨みのこもった目つきでモニカを睨む。


「ですが、この件は魔導学院に報告させてもらいますぞ! それでよいのですな!」

「ええいいわ。好きにすればいい」


 モニカたちは装甲車に飛び乗る。

 キャッセがハンドルを握り、エンジンをかける。


「すまねえ……だがあんまり軍と揉めるなよ。身内に敵を作るのはまずいぜ」

「いまはそんなことを言ってる場合じゃない」

「あいつらがわざと遅れて駆けつけたらどうする?」

「さすがにそこまではしないでしょう」


 と思うのだが、自信のないモニカであった。

 マドラスだって自国民を守るために兵士になったはずなのだ。くだらない自尊心のために襲われている人々を見捨てるような真似はしない。そのはずである。


「世の中にはひとの足を引っ張るのが趣味のやつもいるからな」

「マドラスがその手合いじゃないことを祈りましょう。いまはとにかくスピノザに一秒でも早く着かないと」

「だな、飛ばすから舌を噛むなよ!」


 キャッセがアクセルを思いっきり踏み込む。ここからスピノザまでは全速力で飛ばしても半日以上はかかる。モニカはこんなにも距離と時間がもどかしいものだと感じたことはこれまでなかった。キャッセは恐らくそれ以上だろう。


 焦ってもいまさらどうしようもないが、果たしてこの決断は正しかったのであろうか。

 その答えは風だけが知っているように思われた。荒野を吹き抜ける風がスピノザまでモニカたちを導いてくれるように感じたからであった。




 そのころ、スピノザは自治区の軍隊を目前にしていた。

 近づいてくる軍隊の数の多さと、何より巨大な機械人形――タイタンの威容に騎士団員たちは震えあがっていた。


「ななな、なんだありゃあ……あ、あんなのとどうやって戦えって言うんだよ」


 タイタンが地を踏む音が響き渡る。

 不穏な唸りがスピノザの人々の心をかき乱す。あちこちで悲鳴が上がる。


「お、おい、あいつらなんか構えたぞ……なんだありゃあ」


 魔動砲であった。ジジジ……と音を立てて魔動エネルギーが収束していく。そして発射される。城門に凄まじい衝撃が走る。爆音が轟き、都市が揺れる。強固な城門が歪んだ。その威力に騎士団員たちは蒼白となる。


「おいおいおい、こ、こんなのは聞いてねえ! どうすりゃいいんだ!」


 そのとき、壁の上に立って自治区の軍勢を眺めていた騎士団員のひとりの頭が跳ねた。魔動銃による銃撃であった。ボルトという大柄な団員であったが、頭を撃ち抜かれてはもはや命はない。糸が切れた操り人形のように壁から落下して、地面に激突した。鈍い音がして、それが合図であったかのように、壁の外から魔動銃のエネルギー弾が弧を描いて飛んでくる。スピノザの城内は大混乱に陥った。人々を守るはずの騎士団員たちが我先にと人々を押しのけて逃げ出していく。


「やれやれだ――」


 リンデルが手を振ると、風が巻き起こり、エネルギー弾を跳ね返した。

 その様を見て人々が口々に呟く。


「魔法……魔法だ!」

「ま、【魔女】様だ!」

「【魔女】様! どうかお助け下さい! このスピノザを……どうか――」


 リンデルの周りに人々が集まってくる。救いを求める瞳。それらが集まってリンデルに嫌な記憶を呼び起こさせる。だがリンデルはそれを振り払い、彼らに告げた。


「そうだ。あたしは【魔女】だ」


 元、だがな。心中で呟く。だがそれがどうした。このスピノザの現状はいま見た通り。騎士団連中はとっくに逃げちまって、誰も戦おうとはしない。誰も守ろうとはしない。あたし以外は。


「あたしが守ってやる。心配すんな」


 人々から歓喜の声が上がる。


「みんな壁から離れてろ。流れ弾に当たらないようにな」


 リンデルは風の魔法で跳躍する。壁の上に移動し、周囲を見渡す。


「こりゃあすごい」


 素直な感想であった。見渡す限りの敵に、見たこともない機械人形が四体。そのどれもが武器を携え、スピノザを狙っている。


「こいつは半日ももたないぜ」


 あたしがいなかったらな。

 リンデルは魔力を解放する。風の激流がリンデルの周囲を駆け巡る。


「ベルデ師匠――風の加護を」


 不肖ふしょうの弟子ですが、今日だけは力を貸してください。

 あたしの風でスピノザを守る。

 風よ、吹き荒れろ。

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