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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第二部 自治区編

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自治区編7 自治区の議員たち

 第一議員カルパ

 第二議員サントス

 第三議員ヨーゼフ

 第四議員ノルディック

 第五議員アリアナ

 第六議員メンフィス

 第七議員ヴィオラ

 第八議員イスカンダル

 第九議員ヨアキム


 以上がマグマレン自治区の政治を支える議員たちである。


 第一から第九までの区画からひとりずつ選挙で選ばれ、そのなかでヨアキムが代表の座についた。

 区画は数字が若い方が歴史が古く、大きくなるほどに新しくなる。いずれはもっと増えるだろう。

 古い区画の議員は比較的保守的で年齢層も高い。

 反対に新しい区画の議員は若く先鋭的な傾向がある。


 今回意見が分かれたのはまさに第一から第四議員と、第五から第八議員の間においてであった。


 その内容は、


「魔動エネルギー研究の第一人者であるアレクセイをマグマレン自治区に引き入れるや否や」


 という選択であった。


 提案したのは第六議員メンフィス。


 第一議員から第四議員までは、


「そんなことはできない、それは同盟国である王国に対する裏切りである」


 と慎重論を述べるのであるが、


 第五議員から第八議員までは、


「そんな甘いことを言っていては他国に後れを取る。王国の技術主任がせっかくこの地に来ているのだ。この機会を存分に利用すべし」


 という強硬論を唱えているのである。


「いったいどうしてそんな話になるんだ……」


 ヨアキムは頭を抱えていた。

 第五から第八議員までは正気を失ってしまったのであろうか。

 これでは王国に敵対すると言ってるも同然ではないか。


 そんなことはできない、と意見を退けるのは簡単である。だがそうなると彼らの反感を買うことになるのは間違いない。こんな無理筋を押し通そうとしている以上、彼らにはそれなりの覚悟があることは明白で、それがヨアキムには不気味であった。


 自分ひとりでは到底決めかねると見たヨアキムは彼らを呼び出した。すなわち第五から第八議員の四人であり、彼らがいったいなぜそのような妄挙もうきょに及ぼうとしているのかを問い質すためである。


 ほどなく四人が代表の部屋を訪れた。


 第五議員アリアナ

 第六議員メンフィス

 第七議員ヴィオラ

 第八議員イスカンダル


 彼らは威圧的とも言える態度で椅子に座ったままのヨアキムを見下ろした。

 アリアナ、ヴィオラは女性議員であり、その口元には笑みが浮かんでいる。

 その笑みがヨアキムには不快だった。


「君たちは自分たちが何をしようとしているのか理解しているのか」


 ヨアキムは鋭く彼らにただした。

 まずは先手を取って主導権を握る。その心づもりであった。

 しかし帰ってきた反応は鈍く、冷ややかなものである。


「もちろん理解しております。失礼ですが、理解しておられないのは代表のほうかと」

「なんだって?」

「代表は自治区の将来をどうお考えですか。このままでよいとでも?」

「な、何を言ってるんだ君たちは」


「自治区の将来は風前の灯火であると申し上げているのです!」


 メンフィスが真っすぐにヨアキムを見据えてそう言い放つ。その声は力に満ち、聞くものの心を捉える。議員のなかでもっとも若い二十八歳。だがその風格は古参の議員と比べてもなんら遜色そんしょくない。いや、むしろ凌駕りょうがしているとさえ言える。その迫力にヨアキムは気圧けおされる。


「な、何を根拠にそのような……」


「貿易収支は年々減少しております。その原因は王国からの魔導資源の輸入の増加です。自治区の輸出を支えているのは海産資源ですが、海の魚とて無限ではありますまい。王国が豊富な魔動資源を基に海産事業に乗り出せば、我らの優位もたちどころに失われます」


「う……」


 そうであった。魔動革命の影響で王国からの輸入額が倍増しているのだ。この調子でいけばいずれは赤字になってしまう。だが、それを防ぐために新型魔動炉を建造しようとしているのではないか。


「現在の魔動革命はあのアレクセイが開発した変換器によるもの。王国は年々その力を増しております。それを危険だとは思われませんか」


「し、しかし……変換器についてはその情報を開示してくれたと報告を受けている。事前の取り決めでは非開示のはずだったのだが、アレクセイの好意で開示してくれたそうだ」


「もちろんそれについては感謝すべきです。ですが、そのことについてもう少し考えてみるべきではないですかな」


「どういうことだ」


「非開示のはずの情報を開示したのはなぜでしょう? アレクセイにはもっと高性能の変換器、あるいはさらなる革新的な技術の構想がすでにあるのではないですかな? だからこそ話してしまっても構わないと思ったのでは。もしそうであれば、彼が帰国し、そのような新たな技術を開発したのちはどうなるかを考える必要があるでしょう」


「うぬ……そ、そうか……」


 ヨアキムは自身がそこまで考えが回らなかったことを指摘されたようで羞恥しゅうちを覚えた。確かにそうである。政治家たるもの、常に将来のことを考えねばならない。現状だけで満足していいのは一般市民のみであるのだ。


「王国がさらなる強大な力を手に入れたとき、彼らは変わらずに同盟国であるでしょうか」


 イスカンダルが重々しく告げる。


「私はそうは思えませんな。同盟というのは対等な力関係があってこそ成立するものです。王国がこれ以上力を増せば、我らを対等とは見なさないでしょう」


「ま、待て。何やら話が危険な方向に向かっているのではないか? これはアレクセイの話であったはずだろう」


「きっかけはそうですが、これはすでに自治区の将来の話なのです」


 メンフィスが力強く告げる。


「アレクセイを王国から奪い取るだけでは足りませぬ。彼らの力をぐ必要もあります」


「なんだって?」


「私たちの長年の懸念もこの際解消させてもらおうと思っているのですわ」


 アリアナが歌うように告げる。


「土地の問題のことを言っているのか」


 現在の自治区の領土は増え続ける人口に対してあまりに狭く、土地も痩せているために充分な食料を自給できないのだ。特に稲や小麦といった主食を育てる農地が圧倒的に足りていない。


「君たちはまさか……王国の領土を奪おうというのか」


 四人は揃って頷く。


「ご決断下さい、代表。いま決断しなければ自治区は滅びますぞ」


 メンフィスの圧力によってヨアキムはすっかり冷静さを欠いていた。彼の言葉が正しいように思えた。

 自治区の将来――それがヨアキムの双肩そうけんに重くのしかかっている。

 王国がこれ以上力を増せばどうなる。彼らはアルカロンドの統一に乗り出すのではないか。魔動エネルギーと【魔女】の強大な力でもって。それは恐ろしい空想であった。不意を突かれれば我らなどひとたまりもない。


 それを防ぐには先制あるのみ――ヨアキムの思考がそこに行きつくまでさほど時間はかからなかった。

 

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