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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第一部 魔導王国編

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モニカの章7 エニグマ

 男の名前はフランツといった。

 元魔動省の職員で、現在は裏社会の組織≪エニグマ≫で魔動兵器の研究開発を行っているという。魔動省で得た魔動エネルギーの知識を悪用しているというわけだった。


「エニグマってのは何なんだ?」


 キャッセが尋問する。


「わ……わからない……エニグマはすべてが謎に包まれているんだ」

「そんなわけあるか。じゃあそこで働いてるおまえは何なんだよ。おまえも謎の人物か? ええ?」


「わ、わたしは本当に何も知らないんだ。施設に連れていかれるときはいつも目隠しをして車に乗せられるんだ。だから施設の場所がどこにあるかも知らないし、その全容だってわからないんだ」


「じゃあモニカをさらったあとはどうするつもりだったんだ」

「トレントが組織の上層部と連絡を取る手はずだった。だからわたしは何も知らないんだよ」


「都合のいい話だな。そんなのが信じられるかよ」

「嘘じゃない! 信じてくれ!」


「嘘かどうかはすぐにわかる」


 モニカがフランツの前に指を差し出した。

 魔力を込めてくるくると回していく。


「すべてを洗いざらい吐いてもらう。私の前では誰も嘘はつけない」


 モニカが≪夢の魔法≫でフランツの知っている情報をすべて引き出したが、結局エニグマについて詳しいことはわからなかった。


「なんだかなー研究者って末端なのよね、悲しいことに」

「いつでも切り捨てられるように……か?」


「そうかもね。大事なところは知らされず、組織の歯車のように働かされるのね」

「あのじいさんとかのほうが組織の中心に近いってことか。そうなるとデカブツを殺しちまったのは痛いな」


「すまない。ちょっとやりすぎた……」


 ヤウダの一撃でダムゼルは絶命していた。

 彼が生きていればもう少し役に立つ情報が得られただろうか?


「まあまあ、しょうがないわ。ヤウダもよかったわよ、あの一撃。パッと消えてギュインって現れてバシュッと切る――惚れ惚れしちゃうような動きだったわ。だから許します。結果はやむなし」


「許すといえばだな」


 キャッセがモニカを睨む。


「これが任務だったって言わなかったのはどこのどいつだ? おれらは本当にただの旅行だと思ってたんだぞ。それがなんだ? 魔動士失踪事件の調査任務でおとり捜査だと? そんな大事なことをなんで言わないんだ」


「敵を騙すにはまず味方からってね」

「酒の睡眠薬でみんな寝てる間に殺されちまったらどうすんだよ。その可能性だってあっただろうが」


「私に睡眠薬は効かないし、キャッセが私と一緒のときはお酒飲まないの知ってるからね」

「く……」


「それに、私は二人のこと信じてるから。何があっても必ず私を助けてくれるって」

「ちょ、おまっ……そういうことをサラッと言うんじゃねえよ」


 キャッセは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


 ヤウダもモニカの言葉が胸に響いて苦しくなった。

 モニカの信頼に応えなくてはいけないと思った。今回は不甲斐ないところを見せてしまったが、次こそは必ず自分が率先してモニカを守るのだとヤウダは心に誓った。


 ヤウダは猫の魔法を解いてもらった。

 いつまでも語尾ににゃをつけていては日常生活に支障をきたすからである。


 それに四六時中にゃあにゃあ言っていると、だんだん自分が本物の猫になってしまうような気もしていたのだ。それこそが猫の魔法の効果なのかもしれなかったが、完全に猫になってしまっては【盾】としての責務が果たせない。自分はあくまでも騎士であって猫ではないのだ。


「ナーゴの言葉がわからなくなるのは残念だけど」


 そう思っていたのだが、魔法を解いたあとでもナーゴの言葉は理解できるままだった。

 そのことをモニカに話すとこんな答えが返ってきた。


「魔法というのは現実を改変する力でもあるの。たとえば催眠術では強く思い込むことが実際に肉体に作用するわけだけど、魔法はもっと強力で、その作用が対象を超えて拡がることがある。私はナーゴと会話できることが当然だと考えて魔法を振るっているから、その影響であなたたちもナーゴの言葉がわかるようになったのね」


「あなたたち?」

「おれもわかるぜ。ナーゴがしゃべってるのはな」


 こともなげにキャッセは言う。


「おまえそんなこと言ってなかったじゃないか」

「そうか? 当然のことだと思ってたからな」


 キャッセは魔法を受容する素質が極めて高い。

 それに加え、モニカへの信頼、心のつながりといったものがナーゴの言葉を介するようになった要因であろう。


 ヤウダが猫の魔法の力を借りてようやくナーゴがしゃべることを現実として認識できたのに比べ、キャッセの場合はモニカがそう信じているから、という理由ですんなりとそのことを事実として受け止めたのであった。


「おれはまだまだだな……」


 思わず呟くヤウダにモニカは明るく告げる。


「まだまだってことは、まだまだ成長できるってこと」


 この前向きさがモニカの大きな美質のひとつであった。


 それはある意味ではヤウダとは正反対の性質。

 だからこそヤウダはモニカに惹かれるのかもしれなかった。

 



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