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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第一部 魔導王国編

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モニカの章5 モニカ救出作戦その2

「魔動兵器――それを動かすために私を拉致したというわけ?」


 モニカは腕を縛られて椅子に座らされていた。その周囲には三人の男が彼女を取り囲むように立っている。洞窟の奥に来るまでに何人かの兵士を見かけたが、彼らはどこかの国の正規軍というわけではなさそうだった。


 なにがしかの犯罪組織であることが窺い知れるが、いまモニカを取り囲んでいるのがその組織の幹部連中なのだろうか。結論付けるには判断材料が足りなかった。そのため、モニカは彼らをゆっくりと観察することにした。


 ひとりはトレントと名乗った老人。彼は黙って腕を組んでいる。その佇まいには隙がない。かなりの使い手であるのだろう。パルサフリードの商店街で声をかけてきたときとは雰囲気がガラリと変わっている。なかなかに見事な化けっぷりだった。ヤウダなんかはまったくこの老人の危険性に気づいていなかったのだから。


 もうひとりは筋肉質な巨体の男。こちらは若く、粗暴そうな面が見える。荒事を担当しているようだ。これまでの所作からは老人の部下というような印象を受ける。オツムのほうはあまり良さそうに見えないが、その分体力には自信がありそうだ。


 そして最後は先ほどからモニカに話しかけている男である。目の細い、中年の貧相な男だ。この男からは危険な匂いは感じない。武闘派ではなく、研究者といった風情だ。話の内容から察するに兵器の研究を担当しているのだろう。


 ふふん、と男が笑った。


「そういうことだ。君は断れまい。【剣】のキャッセ君を人質にしているのだからな。彼の命は君の返答次第というわけだ」


 陳腐なセリフである。いっぱしの悪党にでもなったつもりだろうが、どうにも演技の感が拭えていなかった。言葉が真に迫ってこない。悪党を演じる自分に酔っているのだろう。この男が自身の意志でモニカを拉致したとは思えなかった。恐らくはこの男の上に、今回の件を指示した人間がいるのだろう。


「ひとつ訊きたいんだけど」


 モニカは言う。


「最近、≪魔動士≫の失踪が相次いでいる。この件もあなたたちの仕業なのかしら?」

「そうとも!」


 貧相な男が自慢気に言う。

 トレントが余計なことを言うなとばかりに顔をしかめる。


「【魔女】になれなかった出来損ないでも使い道はある。魔導学院が親切にも魔力を扱うすべを教えてくれているからな。それを我々が有効利用してやってるというわけだ」

「我々というのは?」

「それはだな――」


 トレントがごほん、と咳払いをする。


 貧相な男は自分がしゃべりすぎたことに気づき、出しかけた名前を慌てて口の奥に引っ込める。彼は軽率な言動を咎められたように感じたのだろうか、怒りでそれを誤魔化そうとして大声を上げた。


「そんなことはどうでもいい! おまえは自分の立場がわかっているのか?」

「立場?」


 モニカは笑い出す。おかしくてたまらない。


「な、何がおかしい」

「立場がわかってないのはあなたたちのほう。腕を縛って人質を取ったくらいで自分たちが優位に立ったつもり? あなたたちは何もわかってない。【魔女】がどんな存在であるのかを。だからこそ拉致して働かせようなんて馬鹿なことを考えるんでしょうけどね」


 モニカを包む雰囲気が明らかに変わったことを三人は感じ取った。


 モニカの身体から膨大な魔力が立ち昇る。魔力の素養のない三人にもわかるほどの圧倒的な威圧感。近寄るだけで肌がズタズタに引き裂かれそうなその魔力に三人は言葉を失った。


 この細い身体のどこにこれだけの魔力が内包されていたというのだろう。


 モニカの縁のない眼鏡がギラリと光る。

 彼らは蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。


「勘違いしないで。いま、あなたたちの命を握っているのは私のほう。私はその気になればいつでもあなたたちを細切れにできる。精肉店で売ってる豚の挽肉と見分けがつかないようにすることができる」


「ひ、ひいいい」


 貧相な男が恐怖のために悲鳴を上げる。


「でも、それをしないであげたのは――」

「ここだにゃあああ!」


 ナーゴに先導されてキャッセとヤウダが飛び込んでくる。

 彼らはそれぞれトレントと巨体の男に切りかかる。


「私がお姫様気分を味わいたいから。やっぱりいいわよねー囚われの姫を助ける美少年の騎士! 任務はこうでなくっちゃ!」


 おーい、私はここよー早く助けてーとモニカはふたりを応援する。

 ナーゴはモニカの膝の上にシュッと飛び乗る。


「えらいわねーちゃんとヤウダを連れてきたのね」

「バッチリだにゃ!」

「くっくそっ――」


 貧相な男が逃げ出そうとする。

 だがモニカが「捕えよ」と一言呟くと、地面からツタが生えて男の足を絡めとった。


 男は転がって動けなくなる。


 ダメよ逃げちゃ、とモニカは冷たい声で告げる。


「いいところなんだからちゃんと見てなさい。私の騎士たちの雄姿をね」


 モニカは自らの騎士たちに目を向ける。


 ここは最高の観覧席。さあ、見せてもらいましょう。私の騎士の活躍を。


 これこそが【魔女】の特権。


 真剣な表情のヤウダたちを見て、モニカはにんまりと微笑んだ。




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