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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第四部 運命の竜編

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運命の竜編38 竜の壁の攻防その1

 ≪竜の壁≫を竜の大群が襲っていた。


 絶滅したはずの竜族。それが長城の上空を覆っていた。

 玉鋼たまはがねのように硬いと言われる緑色の鱗を鈍く輝かせながら、悠然と空を舞っている。


「壮観だな。竜共がこんなに飛び回っている光景が見られるとは」

「やはりこれはイシュバーンの影響なんですかね」


 モニカがナミアに問う。


 霊峰エウレスカの頂上に巨大な影が見える。

 あれがイシュバーンに違いあるまい。


「だろうな。やつは竜族の王。それが復活したことで、眷属けんぞくたちもどこからともなく現れやがったというわけだ」


 モニカが以前読んだ論文のなかに竜についての考察があった。


 かつて竜の大地を支配していたイシュバーンとその眷属たち。空を埋め尽くすほどに存在したはずの竜たちが現在ただの一匹も姿を見せないのはなぜだろう。絶滅してしまったからだろうか? その可能性もあるだろう。だがその論文では興味深い考察がなされていた。


 竜族とは王を核とした共同生命体ではないか、というものだ。


 かつて竜の大地を埋め尽くした竜たちは、イシュバーンが滅びると共に消え去った。彼らは命を等しくしていたからだ。アルカの化身である竜たちはアルカによって繋がっている。その大本は原初の巨竜イシュバーン。つまりは、イシュバーンさえ討ち取れば、この竜たちも同時に滅びるのではないか。


「だがそれはあくまで仮説にすぎん。私たちのやるべきは――」


 ナミアの手にする鞭が音速で竜を捕らえる。

 何重にも巻かれた鞭に魔力が放たれ、竜は輪切りとなって地上に落ちていく。


「こいつらを一匹残らずブチ殺すことだ」

「ですね」


 モニカは頷く。


「銃兵部隊、前へ!」


 帝国相手に使う気はなかったが、竜が相手なら話は別だ。アレクセイがぶつくさ言いながらも造ってくれた最新型の魔動銃の威力を見せてやろう。


 大型の魔動銃を構えた兵士たちが長城に並ぶ。


「撃て!」


 魔動銃からエネルギー弾が放たれる。

 それらは竜の翼や鱗を貫通した。絶叫を上げて竜たちが撃ち落とされていく。


「すごい! 効果あるわ! やっぱりアレクセイって天才よね!」


 いつぞやの魔動砲にも匹敵する威力である。それがこんなに手軽に扱えるようになるとは、技術とは恐ろしいものだ。そんな思いに気を取られるモニカを竜たちが襲った。だがそれらはキャッセとヤウダによって防がれた。


「ぼーっとしてんじゃねえ! 危ねえぞ!」


 キャッセが騒ぐが、モニカは落ち着いたものである。


「あなたたちが守ってくれるんでしょ。だから私は大丈夫」

「ったく、調子のいいやつだぜ」

「でもその通りだ。モニカはおれたちが守る」


 ヤウダが言う。


「こんなに大きな戦いはこれで最後。気合い入れていくわよ」

「おう!」


 鞭でもって竜たちを輪切りにしていくナミアであったが、背後から襲い掛かる竜がいた。鋭い牙でもってナミアの後頭部を噛み砕こうとする――が、その顎は上空から飛来した二本の槍によって縫い付けられた。竜はそのまま長城の上へと叩きつけられた。


 現れたのは二人の女性。

 ナミアの騎士たち。


 【剣】のニア・プランタールと【盾】のルカ・プランタールであった。


 騎士とは思えない薄布をまとっただけの姿ではあるが、これもすべて素早く立ち回るがため。実の姉妹である彼女たちは共に長槍を扱い、一糸乱れぬ連携でナミアを守護する。


「背後は我らにお任せを――ナミア様」

「ふん、相変わらず可愛いやつらめ」


 ナミアは笑う。

 竜たちに鞭が放たれる。それは音よりも速く竜たちの命を奪い去った。



 ☆



 大要塞ガンガルディアでも兵士たちと竜の群れの戦闘が始まっていた。


 剣を扱う歩兵、騎馬に乗り槍を扱う騎兵、大盾で敵の攻撃を防ぐ大盾兵――前時代的な軍隊ではあったが、彼らはソフィアの力によって強化されていた。大盾兵が二人がかりで竜の攻撃を受け止め、その隙に歩兵や騎兵が剣や槍を突き刺していく。見事な連携でもって彼らは強大な竜の群れを押しとどめていた。


「すげえぜ。相手が竜でも、おれたちは戦える」


 目を輝かせるアッシュであったが、要塞の外で戦う兵士たちが突如として何かに呑まれた。地中から現れたのは、樹木の化物であった。巨大な眼球のあるもの、大口を開けて人を喰らうもの、ツタのように伸びたそれらが無数に絡まり合ってひとつの巨大な怪物の形を成していた。


「あれは――」


 樹木竜ラグスマルナ。


 聖都の王宮を破壊した異形の竜。ということは、まさか――


「お久しぶりですね。ソフィア様」


 大要塞の地に軽やかに降り立ったのはアリアンヌであった。玲瓏れいろうな出で立ちはまるで聖典に出てくる天使のようだが、その瞳には邪悪な炎が揺らめいている。


「アリアンヌ……さん」

「あなたのおかげで我が主は悲願を果たせました。その御礼に苦しまずに殺して差し上げましょう」

「ふざけるな!」


 アッシュがアリアンヌに飛び掛かる。

 だがアリアンヌが竪琴をかき鳴らすと、アッシュは目に見えない力に吹き飛ばされた。


「アッシュ!」

「控えなさい、少年。私は原初の魔女アリア様の分身……君のような下賤げせんのものが気安く触れていい存在ではないのですよ」


 アリアンヌは邪悪に笑う。


「我が主が封印されていたときは私も思うように力を振るえませんでした。ですが、いまは違います。力が溢れてきます。制御できないほどの魔力が。この力を思う存分試してみたい……あなたにその欲望がわかりますか」


「わかりますわよ」


 声が響いた。


 風と共に現れたのは気品に満ちた優雅な女性。

 【第三魔女】ベルデ・ウェルチとその騎士たちであった。


「それが力を持つもののさが……アリアの分身だそうですね。なら私の相手として不足はありません」


 ほお、とアリアンヌがベルデに視線を向ける。


「どなたか存じませんが【魔女】のようですね。いいでしょう、【聖女】の前菜にはちょうどいい」

「では前菜でお腹一杯にして差し上げましょう」


 ベルデは優雅に微笑む。手にする≪風の女王≫が翡翠色の光を放った。



 

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