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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第四部 運命の竜編

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運命の竜編35 月の祭壇

 会談が終わり、ソフィアと共に要塞を出てきたナミアを襲うものがあった。


 つい先ほどこの地に辿り着いたアッシュであった。聖剣イグニスが炎をまとってナミアの頭上に振り下ろされる。だがそれは地中から突如として現れた魔力の蛇によって絡めとられた。無数の蛇は意志を持った縄と化して瞬く間にアッシュの身体を縛り上げていく。身体中をぐるぐる巻きにされて、アッシュは蓑虫みのむしのようにその場に転がった。


しつけのなっていない獣がいるようだな。私に調教してもらいたいのか?」


 ナミアは冷めた目でアッシュを見下ろす。


「アッシュ!」

「ぐ……そ、ソフィア、大丈夫か」

「あたしは大丈夫だよ。まったく、もう何やってるの……」

「そいつは【魔女】だろう! ソフィアは……おれが守る!」

「蓑虫が大きな口を叩くな。なますに切り裂くぞ」

「ナミア、そのへんで許してあげなさい」


 ベルデが告げる。ナミアはふん、と鼻を鳴らして魔法を解除した。

 蛇はシュルシュルという音を立ててアッシュの身体を離れ、消えていった。


「これは……どういうことでしょう」


 コーラルがソフィアに問う。


「見ての通りだよ。あたしたちはもう敵じゃないの」


 ソフィアは凛とした瞳をアッシュとコーラルに向けた。


「敵じゃ……ない?」

「そういうことだ、坊主」


 ナミアがよろよろと立ち上がったアッシュの肩を叩く。


「せいぜい仲良くしようじゃないか。私に調教してもらいたくなったらいつでも言ってこい。じゃあな」


 そう言ってナミアとベルデは≪竜の壁≫の向こうへと去っていった。


「一体何が起こったっていうんです?」

「全部説明するよ」


 ソフィアは二人にこれまでの一部始終を話した。その話の大筋は、コーラルの見つけた『真実の書』の内容と合致していた。その内容がソフィアの口から語られたことで、二人はそれを真実であると受け入れることができた。


「神はもういらっしゃらない……アルカとなって大地に眠っている」

「そう。だから復活した竜は制御を失っている。彼らは血肉を求める危険な生物なの」

「制御できるのはアリアだけ……でもアリアはおれたちの味方じゃない」


 アリアは竜と共に聖都や王都を襲った。それは明確に人々の敵ということ。アルカロンドの脅威であるということ。


「帝国は王国と一時的に和平を結ぶことになったの。軍務卿が同意してくれた」

「軍務卿にそんな権限があるのか?」


「あるでしょうね。宰相は意識不明の重体ですし、聖都はあの有様です。現在グリーク軍務卿の決定に逆らえる人間は帝国には存在しません。ですが、他の誰が戦争に反対しても、あの方が和平を結ぶなんて僕には信じられません」


「ひとは話せばわかるんだよ」


 ソフィアは言った。


「相手のことを決めつけちゃダメだよ。話す前から無理だとかさ、そんな思い込みが未来を狭めていくんだよ」

「なんか大人になったみたいですね、ソフィアさん」

「元からコーラルよりはお姉さんだよ。なんでちょっと上から目線なの」


 むー、とソフィアは頬を膨らませた。コーラルは楽しそうに笑った。


「まあ、なんであれ、ソフィアさんが戻ってきてよかったです」

「……だな。まだちょっと話は呑み込めないけど……いまはそれでよしとしとくか」


 三人は顔を見合わせて笑った。


 ソフィアは胸をなでおろした。これはまだ小さな一歩に過ぎないかもしれない。でも、あたしたちは着実に平和への道を歩んでいる。そのことが嬉しくて、誇らしくて、涙が出そうだった。でもまだ泣くわけにはいかない。まだ何も終わっていない。安心するのは、すべてが終わってから。世界に平和が訪れてから。


 ソフィアはぐっと涙をこらえて空を見上げた。雲一つない青空は遥か天空まで澄み渡っている。

 それは平和を象徴するかのような美しい美しい蒼だった。



 ☆



「和平交渉は成功したようです」


 魔導学院の講堂にて、テレサはミリザたちにそう告げた。おお、という声が上がった。


「さすがはベルデね。頼りになるわ」

「私もそう言いました。でも彼女は笑っていましたよ。これはすべてソフィアの手柄です。私は何もしていませんよ、と」


 ソフィアの真っすぐな想いが帝国を動かしたのだ。ノーラは静かに微笑んだ。そうでなくては。アビスやザンザ、イルマたちも拳をぐっと握りしめた。


「そう言えばベルデはひとつ謝っていました。聖都が襲撃された情報を伝えられなかったことを。あのとき、≪竜の壁≫では通信障害が起こっていたのです」

「竜が上空を通過した影響でしょうね」


 ギルテが指摘する。竜はアルカの化身。三体もの竜が上空を通過すれば、その周囲ではアルカは乱れ、魔動エネルギーは正常に作動しなくなる。


「これを逆に利用すれば、あるいは竜の位置を特定できるかもしれませんね」


 フロンが思いついたように言うが、実用には時間がかかるだろう。たとえアレクセイであっても、そのような機械を即座に造ることはできない。それに、そもそも竜の居場所を調べる必要などないのだ。


「アリアたちが現れる場所はわかってる」


 ミリザが告げる。全員が頷く。


「≪月の祭壇≫――そこが最終決戦の場所よ」


 そこはアルカロンドでもっとも月に近い場所。大満月の日、≪禁呪≫によって月の魔女ミクリーンを≪魔女の鏡≫より解き放つ。アリアはその瞬間を狙う。それは確定された未来。


 最終決戦に向けて、【魔女】たちの心は静かに震え立っていた。




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