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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第四部 運命の竜編

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運命の竜編4 封印の地

「封印の地が≪加護なき大地≫にあるなんて、聞いたことないわ」

「そうでしょうな。これまで誰もあの大地を調べようとしませんでしたから」

「あなたたちはなぜそれがわかったの」

「長老会からの指示です。あの方たちは何か情報を手に入れたのでしょう」


「古い文献でも見つけたってわけ? それとも以前から知っていたのかしら……それで、ノルド城塞にいたクロエに白羽の矢が立った」


「そのあたりの事情はわかりませんが、我らは≪加護なき大地≫を探索し、それらしき洞窟を見つけたのです。入り口には魔法で封印された巨大な門があり、その門には六芒星の紋章が刻まれていました。明らかに蛮族どものものではありません」


「アルカがないのに魔法が機能しているというの?」

「クロエ様の見立てでは、洞窟内に大量のアルカが存在するのではないかと。つまり、封印の地に存在するアルカがその地の封印も兼ねているというわけです」

「なるほどね……」


「長老会からの指令はこの地の封印を解き、≪禁呪≫を持ち帰ること」

「断れば?」

「断れないことはご存じのはず」


 断れば【第四魔女】の地位を剥奪されるだろう。そんなことが実際に可能かどうかはともかく、可能性を示唆するだけでもそれなりに効果はある。少なくとも、長老会はそう考えているだろう。若さも魔力も失ったかつての【魔女】たちは歪な権力に自らの存在価値を見出すようになった。厄介なのは確かにある程度の影響力は有しているということだ。彼女たちのこれまでの実績や人間関係を考えれば当然かもしれないが。


「まあいいわ。あなたが連絡役ということね。なら長老会に伝えて頂戴。引き受けると」

「さすがはミリザ様。そうおっしゃっていただけると信じておりました」


 どうだか。ミリザは心中で呟く。私がこんなバカげた話を受けるはずはない。受けたフリをしているだけのこと……だが、長老会もそれは想定の範囲内だろう。私のことを全面的に信用するはずがない。彼女たちは密かに私を監視するだろう。さて、それをどうやってかいくぐるか……


「いずれにせよ、現地も確認する必要がある」


 翌日、ミリザはオーレンとスパーダを伴って≪加護なき大地≫へと足を踏み入れた。


 ある瞬間から、すとん、と全身の力が抜けたような感触があった。周囲のアルカが完全に失われたのだった。この状態ではまともに魔法を行使することはできない。方法がないことはないが、それは命を削ることになる。全身を巡るアルカ――いわゆる生命力といったものと引き換えになるからだ。


「ここから先は私は無力よ。ちゃんと守って頂戴」


 魔法が使えなくても気位きぐらいの高さは変わらない。

 ミリザはオーレンとスパーダに気高くそう告げた。


「へいへい、仰せのままに」

「しかし……本当にアルカがないんだな、ここは」


 オーレンがあたりを見渡す。荒廃した大地であった。生命のしるしの失われた場所。澱んだ空気と乾いた風。空も曇っているのはなぜだろう。太陽ですら、この地を祝福することはないのだろうか。


 ダミアンから渡された地図に従って、≪加護なき大地≫を進んでいく。蛮族の姿は見当たらない。マイヨール城塞でアスタと共に大軍団を討伐した際、こちら側の蛮族たちも向こうに集結していたのだろう。その後はノルド城塞でもほとんど蛮族の侵攻はなかったらしい。そのおかげで探索が進んだのだとしたら、皮肉な話だ。クロエはその結果として命を失うことになったのだから。


「クロエをやったのはあのイルマとかいうやつだと思うか?」


 スパーダがミリザに問う。マグマレン自治区で出会った【白い魔女】の配下であるイルマはそのときボルカに化けていた。ミリザたちも危うくやられるところであった。彼女ならば、クロエに打ち勝つことも可能だろう。だが……


「どうかしら……【白い魔女】の一味がクロエを手にかける理由がある? それに他に誰も見ていないのに、わざわざ化けて襲う必要があるのかしら。そのことが私は気になってるのよね」


 イルマとてずっとボルカに化けて行動しているわけではあるまい。いくら彼女の魔力が強大であっても、完全な変化を行うことは容易ではないはず。


「しかしそれだと、クロエをやったのは本物のボルカって話になる」

「私が視た映像が事実だとすればの話よ」


 ミリザ本人には事実だとしか思えないのだが、根拠があるわけではない。あくまでも感覚的なものであり、そんなものは何の証拠にもなりはしない。


「クロエが殺されたのには理由があるはず。その理由を探ることが、彼女を殺したものを知ることになる」


 まず解明すべきは「なぜ殺されたのか」ということであり、それが「誰が殺したのか」ということに繋がるはずであった。その二つは明確な線で結ばれているはずなのだから。


 しばらく歩き、険しい山に入った。山中にその洞窟はあるという。やがてそれらしき場所へと辿り着いた。岩山の中腹あたりに洞窟らしきものが見えるが、その入り口は堅固な門によって閉ざされていた。門には話の通り、六芒星の紋章が刻まれている。その紋章から強い魔力を感じる。六芒星の【魔女】たちが施した封印魔法であろう。


「これは――」


 ミリザは目を凝らす。魔法の術式を確認しようとする。だが無理であった。それは巧みに隠されているし、判明したところで複雑すぎる。それに何より強大すぎる。神が創造したとされる≪古の十三魔女≫の魔力は絶大であり、その封印魔法は現代の【魔女】の手に負えるような代物ではなかった。

 

「魔法による解除は絶望的……ならば何が≪鍵≫になるというの?」


 ミリザは六芒星の紋章に手を触れた。

 その瞬間、ミリザは洞窟の中にいた。扉の向こう側である。


「え?」


 背後を見る。扉は閉まっている。魔力により封印されており、開けることはできない。おーい、ミリザ―という声が聞こえる。扉の向こう側にいるオーレンとスパーダの声であった。


「心配ない! 私はここよ!」


 ミリザは叫ぶ。心配ない? 本当にそうだろうか。確信はなかったが、洞窟の内部には確かにアルカが存在していた。それもかなりの高濃度のアルカであった。であれば、魔法が使える。魔法が使えれば【魔女】に怖いものなどあるわけがない。


「私はここを探索する! しばらくそこで待っていなさい!」


 ミリザは叫び、返事を待たずに進みだした。


「この奥に≪禁呪≫とやらがあるのね」


 ならばそれを見つけ、誰かに悪用される前に葬り去るとしよう。

 いま考えるべきはただそれだけであった。

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