暗闇の牢獄
「向日葵〜約束の夏〜」と比べると明らかに暗いです。
誤字や脱字があるかもしれません。ご了承下さい……。
気付いたとき、僕は深くて暗い闇にある牢獄にいた。
―――ドウシテ僕ハ囚ワレテイルノ?
いくら考えてもその理由が分からない。
それどころか、自分の正体すら僕は思い出せなかった。
僕には記憶が無いということしか分からなかった。
瞳を深く閉じて眠りにつく。
僕の周りには闇黒しかない。
右を見ても、左を見ても、見渡す限りに闇の世界。
そんな世界の中に一点だけ、僕から遥か遠く離れた前方で、今すぐに消えてしまいそうなくらい、とても小さな光が揺らいでいた。
僕は、その小さな光に向かって手を伸ばすのだけれど、遠いその場所に存在するそれには決して届くことはなくて―――。
こんなにも欲して、求めているのに手にできない悔しさに、静かに涙が溢れて――…。
ゆっくりと、目覚めるのだった。
眠りと目覚めを繰り返す毎日を送り続けた。
当たり前のようにあの夢を見ることも繰り返されて。
こんな哀しい生活に慣れてきてしまったある日のことだった。
僕は記憶を取り戻した。
この牢獄を監視している番人が、たまたまその仲間と話しているのを、僕は偶然聞いてしまった。
「人間に恋なんかするから堕天使に―――」
一年前。
一人の天使が神の命令で人間界に降りた時、彼はそこで出会った少女に恋をした。
しかし、彼女は知らない内に、神の怒りを買ってしまった。
神はその少女を許さなかった。
天使達に彼女の命を奪うよう命じた。
少女に恋をした天使は、彼女を守る為に、同族である彼らに刃向かい、その手を紅く染めた。
その姿を見ていられなかった少女は彼を止めようとして―――誤って彼は彼女に手をかけてしまった。
「………六花」
僕は自分の愛した少女の名を呟いた。
彼女の命を奪ってしまった僕はその後、我を忘れて狂乱し、誰も止められなかったところを、最後には神の手によって取り押さえられたのだった。
その時僕の周辺には、仲間だった天使の流した血が至るところに広がっていて。
空からは彼女を思わせるような、優しい雪が降っていた。
『癒既』
僕の名を呼ぶ彼女の声、姿を思い出す。
その瞬間、僕の瞳からは静かに涙が溢れた。
ゴメンナサイ。
どんな謝罪を口にしても、決して償うことの出来ない罪が僕にはあった。
それこそ、僕がこの暗闇に囚われている理由。
愛しい人を守る為に、仲間である天使を殺した。
その中には自分と親しい友人もいた。
――――そしてそれを止めようとする愛しい人さえも、僕はこの手で命を奪ってしまった。
どんなに後悔しようと、失った命は戻ってこない。
それでも僕は後悔の涙を止めることは出来なかった―――――。
決して手に届かない、あの白い光は失った命。
―――僕が奪った彼女の命。
そう考えれば「得られないはずだ」と納得することが出来た。
「六花」
僕が愛した人間の少女。
六花とは雪の異名。
その結晶の形が花に似ていることから「六弁の花」という意味で「六花」と言われるのだそうだ。
思えば、あの時に降っていた雪は、彼女が姿を変えたものではないだろうかと僕は思った。
僕が起こしたこの過ちは、僕自身にも大きな傷を残して――――。
この傷は一生治ることなどなく、永遠に痛み続け、永久に僕を苦しめる。
奪った多くの命のことを思って、僕は後悔に泣き続けた。
この深くて暗い闇にある牢獄の中で――――……。
end
別の物語に続きます。
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