思い出のおいしさ
「合格なんてもんじゃなくて、おれが、いままで食べた料理のなかで一番だ」
これは本音だろうが、レイは首をふりながら思い出の味にはかなわないよ、とジュニア用にパイを小さくきりわけた。
「トッドは、―― 南のほうの諸島出身?」
いきなりウィルが質問するのに目をみひらいたトッドは、いや、と言葉をにごした。
「こういう魚の料理、あっちのほうでよくあるよね?まえに旅行で行ったときに食べたよ」
トッドは口の端をさげて肩をすくめてみせた。ウィルはそれいじょう追及しなかった。
ゲイリーがゥィルにその旅行について質問をしはじめて、レイが知り合った《探偵》の男が現地の観光案内をしてくれたと聞いてうらやましがり、ショーンが家族旅行の計画をはじめる。
「とにかく、なにを食べてもおいしかったんだ」
レイが幸せそうにいうのに、コーヒーカップに手をのばしたトッドのくちもとがわらっているようにみえた。
食事の片付けになるころには、トッドはどうやらもう酔っていたらしく、ふらついていたので部屋に返し、マックスだけ参加した。
食器を洗浄機に突っ込んだり取り出すのはケンがやると言い張り、機械からだした皿やグラスを拭き、ジョーにわたす。元聖父だという男は祈りのときの繊細なしぐさとは異なる大ぶりな動きでグラスや皿を棚にもどし、音をたてた。調理台横でじぶんのナイフを研いでいるゲイリーが、割らないようにね、と注意喚起する。
「おれはホテルでは働けないな」
「どっちかっていうと、カジノの用心棒むきじゃない?」
研ぎぐあいをみるゲイリーのひとことに、なるほど、とおれは納得する。




