フロントの受付係
にやりとしたケンは犬をかかえたまま、ウィルたちがむかったほうへきえた。
「 犬を眠らすのは無しだな。おれたちがここをでるときに、小屋から犬をだしておけばいい。そうすりゃすこしはダニーたちの足止めにもなるだろ」
戦力になりそうなのは二匹だけか、と残念そうにグラスに酒をついだトッドは犬小屋をみにいこうととつぜん言い出した。
しかたなくあとに続いて階段をおりるが、とちゅうでやめればよかったとおもいながら階数を確認した。
「 ―― ちゃんと三階分おりたな・・・」
二階からは明るくて広い階段をつかい無事に一階のホールについておもわず言うと、ありゃショーンの勘違いだろ、とトッドにわらわれる。
二階からはじまるあの暗い階段はきっと、この建物においては『非常用』と、『スタッフ専用』ということなのだろう。建物のはじにくっつけるようにつくられたそれは、窓もなく暗いし、ホテルが作られた当時の客たちはあの、『エレベーター』に乗るのが楽しみだったはずだ。
トッドはフロント前を突っ切り、正面の扉へむかう。腕時計で時間をはかっていたおれがそれを追って通り過ぎるとき、襟の細いスーツを着てタイをしめ、髪をきっちりととのえなでつけた男が受付の中にいて、目が合ったおれに笑顔をむけてきた。
あわててきびすをかえしてカウンターに肘をつけ、ほかに従業員はいるのかい?ときいてみる。
「いえ。このホテルの従業員は、わたくしだけです」
内線電話と同じ声でこたえがかえる。
「調理担当とか、えっとほら、ベッドを整えたり、掃除とかは?」
「いらっしゃるお客様はサウス卿のお友達だということなので、それらの担当者たちは今回はおりません」
わかったありがとう、と片手をあげて、先に外へでたトッドにおいつき、もうひとり無関係な人間がいる、と教える。
「このホテルにもとからいる従業員が一人、フロントにいる」
「じゃあ、そいつは薬を盛って犬小屋の奥にでも置いときゃどうにかなるさ」




