『観光産業』
いつも疲れた顔をして話し方も起伏がなく、年齢不詳だが、もしかしたら思っていたより若いのかもしれないと気づく。
「 いいかマックス。おまえが提案したやりかたのほうが、みつかりにくいし、ながく続けられる。カモはみんな観光客で、金をおとして自分の家に帰ってから、なくした金額にきづく。その金額だって、そいつらにしたらバカみたいな額じゃない。貯金箱にはいってる程度の金だから、損したことなんて旅行の思い出といっしょにしまって終わりだ。貸し付けもなしだからおれたちとつながるのも、《この場だけ》って安心感があるんだろうな。いまのところ賭博の客ともめたこともないし、こういうのはけっこう横のつながりでうわさが広がっていくんで、《ついてるヤツ》が『安全な隠れ賭博場』として知り合いに宣伝してくれる。旅先でのちょっとしたスリルをあじわうのに、ちょうどいい場所だ」
「ああ、だから近頃、バーの方がすごい繁盛してるのか」
どうりで、あたりをうかがうような顔をして酒を飲む観光客が多いと思った。
「みんな、おまえに指名されるのを待ってるんだ。なにしろ、おまえのいう通りにして、むこうから賭博場のことをきいてきた客はぜったいに入れないし、こっちが招く客を選んでるっていうのを《ついてる》カモに感じさせないとな」この提案もいい、とダニーはほめる。
「自分から売りこむやつにかぎって、なにか企んでる場合があるからな」
「ああ。でも、かなりの数をカモにしてても、前にくらべたらアガリはひくいだろ?」
「そう思うだろ?ところがな、こっちのほうがかなりいい。地元の貧乏人をながいこと相手にするより、よそからきた金持ちに一度でたくさん落としてもらう。これはれっきとした観光産業だ」
そういってわらったダニーにあわせておれもわらったが、なんだかひきつってしまった。
おれも、『地元の貧乏人』のひとりだからか?