お宝
トッドはバーカウンターにはいり、棚からとりだしたグラスに、持ってきた《合成酒》をついでいた。どうやらおれがいったことを守り、鼻のきく『犬』がいるここでは、クスリいりの煙草を吸うのをやめることにしたらしい。
「 ―― ダニーが来る前に、どうにかお宝をさがさねえとな」
まだそんなことをいって、棚からだした本物の酒を足してから、一気に飲んだ。
あのなあ、とおれはあらためてこの相棒にいいきかせなきゃならなかった。
「ダニーが何を狙ってくるのかなんて、おれたちはしらなくていいんだ」
「ばかいうな。ここはもともとおれたちが狙ってたんだぞ」
「おい、トッド、『せっかくつかんだ』この幸運を『じっくりたぐりよせてつかむ』っていってただろ?いいか、ほんとうならそのほうが理想なんだ。おれたちはほんの小銭でおいはらえるハエぐらいに思われていた方が、この場合長生きできる」
「なあマックス、この部屋をみてみろ」
トッドが両手をひろげてカウンターのスツールに腰をおとした。
「 このホテルは、サウス卿が買うまでずいぶんながいこと使われてなかっただろ?それなのに、別荘でつかうために、ここまできれいにしてある。金をはらってここまでしあげたんだ。おれたちの部屋とは、まったくの別世界だよなあ」
「そりゃ当然だろ。もとからスイートルームなんだし」
「そうだ!スイートだ! ―― いままでみることもなかった世界に、あいつらに『どうぞ』っていわれただけで、入れたんだぜ。ここはおれたちにとっちゃ別世界だけど、あいつらにはあたりまえの世界なんだ。 そんなやつらが持ってる、『ダニーが狙う』ほどのお宝なんだぜ?」
「トッド、お宝だと決まったわけじゃないだろ?」




