内線電話
「トッド、よくきけ。これいじょうよけいなことは言うなよ」
部屋にはいってすぐのおれの忠告に、トッドは鼻をならすようにわらいかえした。
「 あの貴族様だって、おれたちがどういうつもりでここに来てるのかわかってて招きいれたんだぜ?それならなにもかくすことなんかねえさ」しかも、スイートルームだなんて、おれたちに親切にした方が得策だって思ったんじゃねえか?などと、ありえない勘違いでよろこんでいる。
部屋にはいってすぐのところには、一階にさがっていたシャンデリアの先だけきりとったような電灯がさがり、暖炉があってソファもあった。むこうの奥にバーカウンターがあり、後ろのガラス製の棚には何種類ものグラスが飾られるようにおかれている。
カウンター近くにおかれた扉のない木製の棚には、高級な酒が売り物みたいに並べられ、トッドは興奮しながら、まだあいてもいねえぜ、と並んだ瓶をとりだし、さっそくバッグにおさめはじめた。
おれはなにも言う気がおきず、カウンターにおかれた古い電話の重たい受話器をとりあげ、黒く大きな電話機の手前に書かれた番号をみながら、ダイヤルをまわしてみた。
『 フロントでございます 』
すぐに声が応じた。
「・・・・あ、外線で、車の修理をたのみたいんだが、この部屋の電話じゃやっぱり外につながらないかな?」
ウィルはじぶんの部屋の電話しかつながらないようなことを言っていたが、ものはためしだ。
『 いいえ、そちらも外線に切り替える番号をかけていただくと、つながります 』
なめらかにこたえがかえる。
さっきフロントに従業員はみかけなかったが、貴族様はこのホテルといっしょに人も買い取ったのかもしれない。
『 修理業者でございましたら、こちらで手配いたしますが 』
「いや、その、―― 知り合いの業者にたみたいんで、おれがかける。外線へのつなぎかただけ教えてくれ」
ダニーに連絡しなくちゃならない。
フロント係は外線へつながる番号を教えてくれ、ほかになにかお困りなことはございませんか?ときいてきた。
困っていることならたくさんあるが、それをこの従業員に伝えてもしょうがないだろう。
いまはない、といってから、すぐに外線で、ダニーに教えられた番号へかけた。




