カモのトリセツ
おれの提案でバーの地下にあたらしくにつくった賭博場は、高級感あるおちついた内装にしあがり、おれが選んだ《ついてるヤツ(カモ)》は、自分が選ばれたという優越感とすこしの恐怖心をかかえながら地下へとおり、そこにまっていた隠れ家的賭博場に目をみはると、無料だというカクテルをもらい、こわごわとテーブルにつき、すぐに勝ち始めた。
ここまでは、イカサマなし。
なんといっても、ついているヤツなのだから。
つぎに、すこし操作して、カモは負け続ける。ダニーの案で、ついてないヤツではなく、仲間を客にしたてて同じテーブルにおくことにしたので、そいつが勝って、おおげさによろこび、かけ金をつりあげる。ここでカモがおりたらそれまで。テーブルに残ったら、カモを勝たせてやる。大勝ちはさせない。扱いは現金のみで、貸しはなし。
カモが機械からひきだしてきた現金のみのお遊びだが、旅先ということでか、それとも無料のカクテルにいれた気分が良くなるクスリのせいか、カモは機械からけっこうな額をひきだして戻ってくる。
バーのすぐ近くにあるその機械にいくのに、危ないからとスーツを着た護衛をつけてやる。チップも受け取らずに、引き出した金にも手をふれずにただ見張っているだけの『護衛』が、なんだかいまの自分はとくべつだとおもわせるのかもしれない。
現金がなくなったカモが、金をかりたいといっても貸さずに、そのまま上のバーへともどす。あとはそこで飲み明かすなり、なぐさめるあいてをさがすなりご自由に、ということだ。
ある意味、まっとうでクリーンな商売だ。
こんなアガリで納得できるのかと二人きりの時ダニーにきいたら、おれはいいとおもうが、と声をひそめた。
「 ―― ここは前までコザックファミリーの縄張りで古いやり方が通ってた。おれはそういう古臭いのは嫌いだが、まえからここで働いてるやつには、こんななまぬるいやり方じゃだめだっていうのが多いな。金を貸し付けて、縛り付けてすいあげろってな」おれはカシワファミリーから来てるし、まだ若いんで、そいつらには嫌われてるさ、とダニーは煙草に火をつけた。