《E》mpty
途中のスタンドで給油したとき、キャップを閉め忘れたか?
あわててさっきみたばかりのガソリンメーターに目をやれば、みるまに針が《E》のほうへとよっていく。
「うっそだろ」
ゆきが積もる地面にはいつくばり、車の下をのぞけば、ぽたぽたと垂れる液体がみえた。車の後ろへまわってみると、タイヤとタイヤでつくられた溝のあいだは、ほんらいは車体の下になり雪はきれいに残るはずなのに、そこには、むこうからここまでずっと、液体が垂れ続けたあとが続いている。
「・・・そんなわけ・・・」
スタンドで給油しているときには、ガソリンがもれる気配なんてまったくなかった。
雪がふかくなった道でも、氷のように固まったところになんてのりあげていないし、ダニーから提供されたこの車は、そんなに古い型じゃない。
どうした、とトッドもようやく車からおりた。
「・・・ガソリンが、もれてる」
「はあ?だってとちゅうでいれたろ?」
「そうだよ。だけど、あそこではなんともなかったんだ。そのあとかも」
「じゃあやっぱり、おれが床を蹴るもっと前からってことだな」
「そうだけど、 ―― 」
そのとき、その音にきづき、こちらへ近づいてくる車がいることに気づいた。
それは、荷台に幌をはった中型のトラックで、雪の降るこの中でも普通の速度で、どんどんと近づいてくる。
トッドはおれが止めるよりさきに、そのトラックへ向けて両手をふってみせた。
「おい、やめろ。業者だとしても、前日に顔をみられるのはよくない」
だが、トッドはおれをふりかえり、じゃあここからどうすんだよ?ともっともな疑問をくちにした。
「ほかの車が通る道まで、この雪道を歩いてもどるってのか?ありゃきっと配送業者だ。道に迷ったっていやあ、助けてくれるさ」
おおきく両手をふりつづけ、トラックはおれたちのかなり手前でエンジンはきらずにとまった。
高い位置にある運転席の様子は暗くてみえない。リアウインドウにはかなり雪がはりつき、ワイパーは動いていない。
首をかしげたトッドは、みずからトラックへ近づいて行った。おれはなんだか嫌な感じがして、そのトラックに近づきたくなかった。




