車も《わけあり》
「はいったらすぐダニーに連絡することになってる」
トッドはまた首をふって酒をあおった。
「 ―― なあマックス、ダニーにはいつおれたちが別荘にはいったかなんてわかんねえよ。おれたちがもし、先に貴族のお宝のありかをみつけたとしたら、なかよく分けて、この国をでりゃいい」
こんどはおれが首をふる番だった。
「なあトッド。ダニーが貸してくれたこの車が、普通の車のわけないだろう?なにかの犯罪に使ってて、ナンバープレートだけ変えてあとはそのままだ。元のプレートはトランクルームにいれてあった。おれたちはその車に乗ってるってだけで、その辺ですぐパトロールカーに捕まって、終わる」
「『その辺』で?」
「ダニーが昼過ぎにでも、この手配中の車を見たっていう『目撃情報』を、通報するだろ」
「くっそ!!どうりで気前がいいわけだぜ」
いいながらトッドが床を蹴った。
そう、ただそれだけだ。
それだけなのに、車がとつぜん、力をなくしたようにとまった。
「 ―― じょうだんだろ?」
「おい、ガソリンは?」
「あるよ」
メーターは半分をさしている。
「もう一回エンジンをかけろ」
「やってる」
だが、いくらイグニッションをまわしても、空振りの音が響くだけだ。
「くっそ、ダニーにやられたな」
トッドは自分の額をたたいた。
「まさか。目的に着く前のおれたちにこんなことしても、あいつには何の得もないだろ」
「じゃあなんだよ?おれが床を蹴ったせいだっていうのか?」
「そうかもな」
いいながらドアをあけ雪道におりる。そのとたん、鼻をガソリンの匂いがついた。




