見極める
ダニーはまだ黙っているのでそのまま続ける。
「 だいたい《ついてるヤツ》っていうのは、ピザの配達人にはチップをけちるくせに、いい暮らししてるもんなんだよ」
目の前にいるダニーも《ついてるヤツ》だが、決してひきあいにはださない。
「 ―― だから、そういうやつらをここの賭博にひきこんだら、けっこうな稼ぎになるんじゃねえかな。ほら、ここっていっけん普通のバーだしさ。いまは下の賭博場にはいれるのって、それをしってる地元のやつだけって感じだけどさ、逆に、まったく知らないでバーに来てる観光客とかひきこむんだよ。持ち物やクレジットカードなんて見なくても、おれにはそいつが金をもってる『ついてるヤツ』かがわかるんだ。カモとしてもってこいだろ?」
「つまり、 ―― おまえが、上のバーでそういうカモになりそうなやつをみきわめるってことか?」
「ルーレットのテーブルなんかで、ついてるヤツの横に、ついてないヤツをすわらせて、すこし勝たせてやるんだ。普段ついてないことばっかりだろうから、おおげさに喜んでくれるから、ついてるヤツはそれをみて、ぜったい倍は賭けるさ」
「おいおい、『勝たせてやる』なんて、まるでここでイカサマがあるみたいな言い方するなよ」
「ああ、わるかった」
「まあ、そんなはなし信じるほどおれはバカじゃねえが ・・・おまえ、すこしつかえそうだな。雇ってみてもいいかもな」
「ほ、ほんとに?」
「その観光客をよびこむのに、ほかに何が必要だと思う?」
「ああ、えっと、見張りがいるあの裏口からはいるんじゃなくて、店の奥に『特別に』っていうふうに案内されていくのがいいと思うよ。本物のカジノみたいに、ディーラーいがいもちゃんとスーツを着るとか・・・」
ここで、ダニーの横にたって顔をしかめていた男が、おれがまだにぎっていたペンと借用書をとりあげ、ダニーに、こういうやつは内臓を売ったほうがはやい、と助言した。
「いいんだ。雇うことにする。ほら、借用書をみろよ。こいつ、ご丁寧にこっちの誤字をなおしてる。おまえらの中で、このつづりのまちがいに気づいてたやつはいるか?」
こうしておれは、ダニーに『みこまれた』かたちで雇われることになった。
もちろん、おれが負けたぶんの支払いはあるので、金はもらえない。寝床と日々をどうにかしのげるほどの小銭を支給されただけだが、内臓を抜かれてすぐ死ぬよりいい。