売りこんでみる
2.
そりゃもっと若いころは、すこしまじめになろうと思って、中央街にきてからレストランのキッチンで料理してたこともあるし、ピザやバーガーを配達したりもしたけど、ながくは続かなかったし、なによりおもしろくなかった。観光でレストランにくる客たちはばかみたいに楽しそうなやつらばっかりで、注文間違いをこっちのせいにするし、ピザを配達しにいく先の客たちはおれより若そうなやつらばっかりなのに、のぞいた中は、なんだかいい暮らしをしてそうで、ケチなチップにその場で文句をつけたらクビになった。
しかたがないので地下で賭博場をひらいてるバーで、出入りの客をチェックする仕事をするようになった。
おれ自身は金がないから、そこでは四回しか遊んだことはない。
初めての時はすこし勝てるようになっているのを知らずに、二回目に行ってあっという間に負けたのを三回目でどうにか返し、四回目で大負けして借用書にサインをし、親戚や親しい友人の名前をかく欄になにもかけないのをみたおれに、そこを仕切っているダニーという男が、遠くの国で兵隊になるのと内臓を売るのとどちらがいいかときいてきて、おれは自分の能力を売り込んだ。
「おれ、顔を見ただけでそいつが《ついてるやつ》か《ついてないやつ》かが、わかるんだ」
「はあ?なんの寝言だ?」
「賭け事にしろ、交通事故にしろ、けっきょくは、ついているかいないかで、勝ち負けがきまるってことだ」
「・・・つづけろ」
「おれは、顔をみただけでそいつが、《ついてるかついていないか》わかる。もし、顔をみたやつが《ついてないヤツ》で、その顔をみたときに信号を渡ってる最中だったら、おれは走ってそこを離れるようにしてる。たいてい、そいつはすぐ事故にあって、おれはまきこまれずにすむ」
これはかなり誇張しているが、間違いでもない。《ついてるやつ》が事故にあってるのをいままでみたことがない。