金のにおい
8.
そうして、そのあとのトッドは、まえよりもさらにおれに恩を売るようなことを口にしながら、古着屋のすみに積んであったゴシップ雑誌をまとめ買いし、おれを図書館へやり、古い大衆紙にのっているアルゴスの息子のことや、貴族であるサウス卿の息子だという金髪男のことを調べてこいと命令した。 そこには、《貴族》や《上流階級》たちのどうでもいい噂や、私生活の憶測。かかわっているビジネスの宣伝や中傷。起こした事故や事件までがのっていた。
おれはいままでこういう《階級》には、縁がないからほとんど興味もなく、図書館の暗い明りの下で、マイクロフィルムにおさまった大衆紙も「くだらねえ」とつぶやきながらみていたのだが、いくつかはフィルムを止めて読んだ記事もあった。
ふうん・・・ウィル・デ・サウスは《警備官》になったのか。それに、アルゴスの息子も・・・
マフラー男の病室の前にいたあの男たちは、警察官ではなく、《警備官》だったのかもしれない。
さらにさかのぼると、アルゴスの操縦する船で、あのマフラー男は子どものころ死にそうな大けがをしたのがわかり、それといっしょに、アルゴスは、両親をなくしたマフラー男の《後見人》だということもわかった。
なるほど。こりゃトッドがあきらめねえわけだ。
たしかに、あのマフラー男をおさえていれば、おれたちにもあいつらからこぼれた《なにかが》やってきて、いいめをみそうだとおもわせるほどの、金のにおいがする。




