おれらの知らないところ
おれはトッドに嘘をつくことに、なんの抵抗感もないし、しょうじき、もうこれいじょうあの『マフラー男とその周辺』に、かかわりあいたくはなかった。
なにしろ、あのでかい病院からこじんまりした普通の病院へ送ってもらい、看護師にひきわたされてから、おれはまた、まわりのヤツらが《ついてるやつ》か《ついてないやつ》か、みえるようになったからだ。
出会ってからずっと、《ついてないヤツ》であるトッドは、ひさしぶりにあっても、あいかわらずそのままだ。だからいま、テーブルをにらむようにして、自分がつかんだと錯覚した『運』が、やはり幻だったのだとようやく、――
「よし。それなら、すこしおとなしくして、冬季休暇をねらう」
「 ―― ねらう?・・・トッド、おれのはなしきいてたか?」
「ああ。だから、すぐに動くのはやめた。せっかくつかんだ『運』をはなすわけにはいかねえもんな。じっくりたぐりよせてつかまねえと」
いやいや、なにもつかんでねえんだよ、というまえに、トッドはいやな名前を口にした。
「 大通りで酒場やってる《ダニー》っていう男が、おまえのことをさがしに、おれのとこにきた」
「・・・しゃべったのか」
「だって、しかたねえだろ?むこうは調べておれのところに来たんだぜ?それに、賭博の金のことはもう水にながしてやるってよ。 ―― もどってほしいんだと。おまえに、補佐として。 ほら、すこしまえに、残ってたコザックファミリーたちが『行方不明』になってるって噂があっただろ?だから、ダニーのところからも何人か男たちが消えちまったっていうんだ」
消えた?
「消したのまちがいだろ」
「ああ、おれらの知らないところでまたギャング同士で小競り合いがあったのかもな。とにかく、それで人もたりないし、なによりおまえのこと《買ってる》みたいなこと言ってたぜ。 だけど、いまマックスはおれと《組んで》て、いまは次の仕事の《下調べに出て》しばらく帰ってこねえっていってやったんだよ。そしたらよ、『そんなケチなことしてないで戻ってこい』っておまえにつたえておいてくれって、おれにチップわたして帰りやがった」
つまり、トッドは自分を、おれの《相棒》で、おれを下調べに《行かせている》リーダーだとダニーに売り込んだのに、チップをわたされ、おまえはただの伝言係だ、としめされたのだ。




