つかんだのは
ふだんバーにはいってもカウンターで安い合成酒を飲むだけのトッドは、入ってすぐにおれをすみのボックス席へとひっぱってきた。まだ『マフラー男』の仕事をうけたときの報酬が残っているのだろう。
だから、『マフラー男』がらみで、まだ金をひっぱれると考えるのは当然かもしれない。
「アルゴス?ああ、きいたことあるな」
「とうぜんだ。ホテルやレストランももってるのに、このまえでっかい船も買って話題になったろ?」
「ああ、・・・ほかの国の船主ともめたとかいうやつか、・・・」
そこでようやく思い出した。
おれがみたアルゴスのその記事には、カメラをにらむ機嫌の悪そうな男が『息子』だとあったはずだ。
握手をして脅してきたあの男だ。
「・・・なるほど、そうか・・・」
おれのつぶやきに、そうなんだよ、とトッドはグラスをおいた。
「このチャンスをのがすなんて考えられねえだろ?これは、おれたちにやっとまわってきた《ツキ》だ。おまえが入院してるあいだ、おれは古着屋のすみに積んであったゴシップ雑誌を漁って、アルゴスの息子についていろいろ情報を手に入れておいたのさ。いいか、マックス。病院代だけで満足なんかしてる場合じゃねえぞ」
「満足もなにも、まだからだが痛くて、しばらくおれは手伝わねえからな」
「冗談いうなよ。ここからだ。せっかくつかんだ運から手を離せるかよ」
トッドはすっかり、自分がその『運』をつかんでいるつもりになっているようだ。




