からだのなかはきれいかも
「自分がきれいだなんて思ってねえよ。ただ、あのクソまずいうえに煙草より先に心臓を弱らせるって言う合成酒を飲むあんたよりは、からだのなかはきれいだろうけど」
このひとことに、トッドはいつものように、にやりとしてから殴る真似をしてきた。
おれが、なまいきなことを言い返すと、なぜかこんなふうに嬉しそうな顔をする。まえに、『おまえもだんだん悪党らしいくちをきくようになったじゃねえか』なんて言っていたので、こういう会話を、仲間同士の合言葉かなにかと思ってるのかもしれない。
まあ、悪党は悪党でも、トッドは悪党の底辺でもがいている間抜けな悪党だ。
そうじゃなきゃ、おれが路地奥でボコボコにされてるのをアパートの屋上からみてて、「おまわりがくるぞ!」なんて叫んで助けないだろうし、そのあとわざわざ下におりてきて、「助けてやったんだから、これからこのアパートの最上階にすむやつのところに屋上から忍び込むのを手伝え」なんて馬鹿なことは言わないだろう。
もちろんそれも失敗というか、忍び込むのには成功したが、脅して現金か金目のものを奪おうと予定していた住人は、どこかのだれかに殺されてベッドに倒れていたので、おれたちは悲鳴をあげて屋上へ戻った。
そうしておれは、間抜けな悪党のトッドと、なんとなく組み続けることになってしまった。
まあ、いいさ。
おれだってまともな職についてたわけじゃないし。