善意
「まじか。やっぱりあいつ、金持ちなんだな」やっぱり、《ついてるやつ》らしい。
おれが興奮して手をのばしたとたん、小切手はさらわれた。
それをつまんだ弁護士が、つまらなさそうにおれをみあげていった。
「ただし、これをあんたへ渡すのは、ちゃんと仕事について、半年経ってからだ。先にこれだけわたそう」
そういって、おれがレストランで働いていたころひと月にもらっていたぐらいの金額の小切手をさしだす。
「おい、冗談だろ。はやくそっちもくれよ」
つめよるおれの横にマイクが立ち、弁護士は高額な小切手のほうを、古くて丈夫そうな鞄へしまった。
「 さっきのわたしの言葉をきいてなかったかね?これはレイの善意だ。きみはたしかにレイの命をすくったが、レイのあとをつけてたんだって? ―― マイク、たしかレイのあとをつけて彼をおどすおかしな《宗教》のやつらがいたが、いまどうなってるかね?」
「ああ、いまは《特定危険集団》として、ベインたちがみはってる」
『 おまえも今日から『治安部』が赤い印をつける人間の仲間入りだ 』
ここに来る前にいわれたことを思い出す。
マイクが頬のひげをかきながら、おれをわらう。
「いいか、今回おまえはベインのはからいで、その集団からははずされてる。だが、彼の頭のなかにはもうおまえの情報がはいってる。それはおれも同じだし、サリーナもノアもおなじだろうなあ。もしおれたちが仕事をしていて、どこかでおまえの名前がでるようなことがあったら、たぶんベインは、おまえの名前を迷いなく《レッドチェック》にいれるだろうな」
「おれは宗教なんて関係ねえよ」
「そうだろう?レイだって宗教になんて関係ないのに、おまえみたいに、金につられたやつに、ずっとあとをつけまわされてる」
「・・・・・・そのおかげで、死なずにすんだんだろ」
「それ、あのバートの前で言ってみろよ」
「・・・・・」




