暗い廊下
ついたのは、見慣れている中央警察署の奥に建つ警察本部という大きな建物で、警察署よりずっと古い。
いっしょに車をおりた男が、あの派手な外観の中央警察署なんて、ほとんど観光客用だ、と肩をすくめ、暗くてながい廊下をすすんでゆく。
「 あんな金かけてきれいな留置所なんてつくったせいで、そこに入ってみたい観光客があとをたたないんだ」
「しかたねえとおもうぜ。ここの州って、観光客にたいする制限が多すぎんだよ」
「 ―― おまえ、出身はどこだ?」
「東」
「歳は?」
「三十すぎた。身分証みたんだろ?」
「職についてたあとがみあたらん」
「つかなくても生きてられんだよ。こうやって」
「そりゃよかった」
「どこがだよ?」
「おれたちがさがしてる『残党』は、定職をもって目立たない普通の暮らしをしてるのがふつうだ。そうじゃない暮らしのおまえは、『残党』じゃない確率がたかいってわけだ」
「その、『残党』ってなんだよ? ―― もしかして、なんかの『宗教』なの っつ」
いきなり胸倉をつかまれ、廊下の壁におしつけられた。
こちらを見る無精ひげの男の目が血走っている。
「 ―― ぜんぶ。 知ってることはなんでもいい。全部吐け。 それから、もしおまえがその『宗教』とほんとに何の関係もないなら、このことは全部忘れろ。調べるな。わかったな?」
めをあわせたままうなずくと、ようやくはなされ、無精ひげは微笑みながらこちらの服のしわをのばした。
「 マイク、そんなところで取り調べされると困るな。 おびえてしゃべらなくなったらどうする?」
暗い廊下のむこうから、派手な柄のシャツを着た男がどこからかあらわれた。




