やめられない
「いやだよ。 《ポップ》って、きれると誰かにからだをのっとられたみたいになるんだろ?ほかのに比べても幻聴とか幻覚もひどくて、記憶もとぎれがちになるっていうし」
「いいかマックス。てめえがまだクスリをやってねえからって、自分はまだ『きれいなままだ』って勘違いするんじゃねえ。おんなじなんだ。 盗みはどうだ?店への強盗は何回だ?酔っぱらいをなぐって金をうばっただろう?どうだよ?てめえもれっきとしたクソまみれなんだよ」
トッドは勝ったような笑顔をむけてくる。
倉庫への『盗み』も、骨董品屋への『強盗』も、酔っぱらいねらいの『暴行』だって、ぜんぶおまえが計画もなくおれを道連れにしておこなった犯罪で、二回はおいかけられ、一回は失敗して、酔っぱらいには銃で撃ち殺されそうになったよな?とは、言い返さないでおいた。
そうだ。おれだって、こいつとおなじなんだ。
トッドだって、こうしておれに《ポップ》をすすめるくせに、自分ではまだためしていない。「おれはまだ、いつでもやめられるんだ」などと言いながらいちばん安くて手にはいりやすい《ファン》とよばれる同じような紙煙草のクスリをやっている。
おれは、まだそれも吸ったことがない。
トッドの禁断症状をみていると、『いつでもやめられ』そうにないのを感じているからだ。
本人は自覚ないだろうが、目の動き、汗、からはじまるその症状の間隔は、出会ったころからくらべると、どんどん短くなっている。おれより二十年以上も早くに生まれ、こんな生活もずっと長いはずのトッドは、《ファン》さえ買う金もないときには、それを安い合成酒を飲むことで、どうにかごまかそうとしている。




