修正
34.
ジョーからうけとった《契約書》におれは署名ではなく、名前をさけび、ワクナという《魔女》にも会った。 トッドをうつす前に湿地の教会につれていかれ、シスター・スフィルのうまいパイを食いながら、この世にあって、みんながみえない、いろんなはなしをきいた。
だから、その教会にトッドを連れていき、トッドがそこを気にいったと言った時、おれは、出会ってから初めての『礼』をくちにした。
トッドの前なのに泣いてしまい、あきれたトッドがよわよわしい力でおれの腕をたたいてかすれた咳みたいなわらいをこぼした。
「なんだよマックス、なんの礼だ?おれたちがいっしょにいたのは、クソまみれなときでも、二人でいっしょにクソみたいになってるほうが、おたがい安心だからだろ?『自分よりひでえやつがそばにいるならあんしんだ』ってな」
トッドのことを、ずっとそんなふうにおもっていたのを見透かされたようで、おれは口をひきむすんだ。
「ばーか、それでいいんだ。おれだっておまえのことを、世間知らずのガキだっておもったから相棒に選んだんだぜ。 クソ溜めにはまってるのに、まだ半分もつかってねえのは、きっとおれなんかとちがって育ちがちがいいからだってすぐ気づいたさ。 たからな、・・・だからおれは、おまえに置いて行かれるのがこわかった。前に言ったことはここで取り消す。おまえはまだ、『きれいなまま』だ。あれだけおれがすすめたクスリもやらなかったじゃねえか。安心しろよ、おまえの親父とおふくろに、おれが証言してやるって」
こんどは指先でリズミカルに、腕をたたく。
「・・・だからな、マックス、家に帰れよ。まだ間に合うさ。 帰る家がほんとはあるんだろ?生きてるうちに親父とお袋に会って、クソまみれな生活ともおれとも、おわかれだ」
わらうように指がゆれて、なでるように腕をたたかれたが、おれは泣き声をころして首をふるしかなかった。
その数日あとにトッドをみおくり、おれはレイの紹介でビルのところへ行ったのだ。
――――
「 ―― ほら、こうやって仕事もあるし、仲間も変わって人生がまったくちがうものになったんだよ。だから、まあ顔も変わったのかも」
マイクは、そうか、とあごをかき、またさぐるような目をむけてきた。
「おれが、今日ここにきたのは、ウィルの別荘での事件の後始末に、ベインが絡んだってきいたからだ。 ひとつだけ教えてくれ。 ―― あれは、レイの事件がらみじゃないな?」
マイクは緊張した顔をしていた。




