ご注文をどうぞ
「たぶん違うだろうが、こりゃ、おまえのお客か?」
ショーンがまじめな顔であふれる人々をめでさしてウィルにきく。
「ちがう、と言い切りたいけど、・・・あそこにジョーがいるんだよね」
腕をくんだ貴族様は、スツールがついたバーカウンターをさした。
壁のないそのひろい部屋は、この別荘の《パーティー会場》として見たときと同じように、天井からは等間隔で小型のシャンデリアが四箇所さがっているが、左奥にはテーブルがならび、ボックス席もいくつかあり、食事や酒をとっている人たちもいる。
バーカウンター奥の窓際では小さな楽団が演奏していて、その音にのせ優雅に踊るペアたちが広い空間をまわっていた。
時代が一気にさかのぼり、このホテルの全盛期をみているようだ。
スツールからからだをまわしたジョーが、手をあげてこちらに合図した。
ほらね、というようにおれをみたウィルが先にすすみ、彼の横のスツールにこしかけた。
「おまえは、じめからわかってたんだろ?」
ウィルがつまらなさそうにきくのに、ジョーはカウンターにあるグラスに手をのばすことで返事をごまかし、おれたちをふりむいた。
「すきなものを頼むと、でてくる」
グラスをかかげてみせ、くちをつける。
飲んで平気なのかとおれがきくまえに、ショーンが手をあげた。
「おれは暖かいコーヒーでいい」
頼んだショーンがウィルと反対側のジョーの横に座る。
ジャンも、同じものを、といいながらウィルの横にすわった。
おれもしかたなくショーンの隣のスツールに座るが、なにかを頼む気にはなれない。だいたいカウンターの中にバーテンダーもいないし、と思ったら、いつのまにか白い詰襟の制服をきた男がいる。
「どうぞ」
どこからだしたのか、受け皿つきのきゃしゃなカップをショーンとジャンの前におく。コーヒーのいい香りがした。
なんの疑いもなさそうにショーンがすぐ口をつけ、おれをみて心配するな、と微笑んだ。
「ジョーがすすめるなら安全だ」
どうもこの男たちは元聖父を絶対的に信頼しているようだ。




