『宝』ではなく『門』
「さあ、つぎはだれがあける?」
ダニーがのこりのやつらにそうきくと、まだ扉をあけていな《悪鬼》の中のひとりがまえにでて、「それをおれによこせ」とダニーがもつ鍵のついた輪をゆびさした。
「いいか、てめえがいたところに、たまたまマックスがいたってだけで、ここにもぐりこめたのは、なにもてめえのてがらじゃねえよ。小さい賭博場をまかされてるからって、ここでおれたちにでかい顔するんじゃねえ」
ほかのやつらもその《悪鬼》の背後についた。
ダニーはそれをおもしろそうにながめて、にちゃりと口の端をあけ、しめった音で空気をもらした。
「そんなつもりはねえぜ。ただ、マックスを『ひいた』のはこのおれだ。それにかわりはねえが、まあいいさ、それなら好きにしろ」
そういうと、鍵束をなげわたした。
うけとった《悪鬼》たちが輪についた残りの鍵をかぞえ、ひとつたりないことに気づいてダニーを振り返る。
「てめえ!ひとつ鍵がたりねえぞ!」
そのときにはもう、ダニーは鍵に「扉をだせ」とめいじているところだった。
手にしたその鍵は、みるからにほかの鍵とは形がちがい、現れた扉もさっきまでのものより、倍以上大きかった。
「 それは、部屋の扉ではございません 」
ジョーに抱えられた《管理人》の頭が発した言葉は、なんだかいやに早口だった。
それをきいたダニーは、あたりだな、といって、鍵穴に鍵をさしこむ。
またしても勝手にひらいた扉は、さきほどまでとちがい、きしんだいやな音をたてて、開ききらずにとちゅうでとまった。扉の中も真っ暗だった。
「これだけが違う形の鍵なんて、いかにもってやつだが、どうせおまえら《管理人》なんて、それぐらいの知恵しかねえのさ。おれたち《悪鬼》がのりこんでくるなんて思ってもいなかっただろうが。 あたりだな?これが『門』に続く部屋なんだろう?」
ひらきかけの扉に手をかけ、ダニーがふりかえる。
「いえ、それは部屋の扉ではございません。 先にも申し上げましたが、この地下にはわたくしたちの部屋と、 不要なものをしまう部屋 があるだけなので」
また、あせったような口調でこたえた管理人の『頭』を、ジョーが管理人の『からだ』のほうへなげると、首どうしが吸い付くようにおさまって、元に戻った《管理人》は頭の位置を調整した。
そういえば、たしかにこの男は、トッドにもそんなことを言っていた。
『 ―― 《しまう》ための部屋はたしかにございますが、失礼ですがお客様には関係のない場所のように思われますが』
そうか。それが、『門』に続く部屋ってことだからか。おれたち人間にはきっと、関係ないものなのだろう。
お宝なんかじゃなかった。
このホテルにはそんなものなくて、ダニーがねらっていたのは、その『門』とかいうものなんだ・・・・。
あんなにはりきってたトッドが・・・、先をみてたのに・・・ばかみたいじゃねえか・・・・
きゅうに、なさけなくって、はらがたって、どうにもしかたがなくなって、おれは、扉を開けて入ろうとしてるダニーめがけて走り出した。




