《門》が仕切る場所
石というより、岩をけずったような壁がある空間だ。その岩のくぼみに火のついた蝋燭がおかれている。 空気はかわき冷たいが、寒いというほどでもない。
「 お足もとにおきをつけください 」
おどろいてふりかえると、スーツ姿のあの男が蝋燭を手にして立っている。
「おい、まだこいつらもいっしょなのか?」
ダニーがジョーをゆびさした。
ジョーはまた肩をすくめてみせた。
「おまえたち、さっきじぶんでいってただろう?『ここ』についての取り決めはまだ決まっていないんだ。つまりは、《門》がすべてを取り仕切ったままだ」
はん、とダニーが鳥みたいな鼻を上にむけわらう。
「つまりは、もうガタがきて緩んでるような年寄が、《管理人》をうごかしてどうにか保ってるような場所ってわけだ」
《管理人》とよんだスーツの男をばかにするようにみる。
「おまけにここを、人間のサウスが買いやがったら、おまえらはそっち側につくってことだろ?まったく、これだから《精霊》ははなしにならねえんだ!すぐに人間と交信しようとしやがるしな」
とがった指をむけられた《管理人》は、まったく表情を動かさずにダニーをみかえし、「もう、よろしいですか?」と確認した。
「 ―― よろしくはねえが、まあ、いい。どうせもうすぐ『門』にもつくんだろう?空気がようやくなじみのもんにかわったぜ」
《悪鬼》たちがそろって鼻の穴をうごかすと、《管理人》が蝋燭を持つ手をたかくあげた。
ちゃりん、と音がして《管理人》の逆の手に、たくさんの古い鍵をぶらさげた真鍮の輪がいきなりあらわれる。
ダニーたち《悪鬼》が手をたたき歓声をあげた。
「どれが《門》の鍵だ?はやくよこせよ」
「いいえ、これはわたくしどもの部屋の鍵でございます」
「はあ?てめえらの部屋になんか用はねえ。《門》の鍵をよこせ」
一歩ふみだしたダニーに「もう一度いわないとわからないか?」とジョーがあきれたようなめをむける。
ダニーはにちゃりと音をたてくちをひらいた。
「『ここ』を仕切ってんのが《門》だってことだろ?つまりはヨボヨボでもう力もつきそうな年寄りってことだ。そんなのを守ってる《精霊》なんておれたちにかなうわけねえだろが。いいか聖父、『ここ』ではてめえもただの人間だ。これいじょうおれたちによけいなことをいうのはもちろん、邪魔をしたり、さからえば、《魂》には無理かもしれねえが、その目玉とか心臓ぐらいになら、かるく傷をつけられるんだぜ。わかったなら、もうしゃべるなよ」
いいわたされたジョーは、眉をしかめただけで、それをみた《悪鬼》たちが汚くわらい、あらためて《管理人》のほうをむく。
「さあ、《門》の鍵をよこせ」
ダニーがとがった指先をのばした。




