これで部屋は開かない
25.
レイとトッドを残した部屋のドアをジョーが閉めたあと、片腕にだいているジュニアがからだがおちそうなほど身をのばし、その小さな手でドアノブをなでた。
「これでもう、この部屋はあかない」
ジョーがそんなことをおれにいうので、なんだかわからないけど、おれはジュニアの柔らかい金色の髪ををぐしゃぐしゃにかきまわし、ありがとう、と礼をいってしまった。ジュニアは迷惑そうに髪をなおしながら、おれのことをにらんできた。
「たぶんもう、かなり近くまできてるな」
ジョーはジュニアをジャンにわたし、エレベータを挟んだ反対側にある物置部屋に足早にむかうと、そのドアをあけてすぐの壁にとりつけられた壁掛け電話の受話器をとりあげた。
「 ―― ああ、こっちはレイを『安全地帯』にいれたところだ。そっちの動きはどうだ?」
『安全地帯』だって?
おれの疑問をふくんだ視線を受けてジャンは気にするなというように微笑むだけで、下にもどるぞと先に階段にむかう。
ジョーは電話をもどし、物置小屋のドアをしめた。
いっしょに階段をおりながら、おれがききたいことを先にはなしだした。
「あの物置小屋から地下にいける。そこから続いてる細い通路は、射撃場の休憩小屋とつながってる」
「なんだって!?じゃあ、地下っていうのは」
「いや。この建物の地下室とはまったくべつの、ただの《避難通路》だ」
ジョーはなんだかおれをはげますように、大きな手で肩をたたいてみせた。
「でもそれなら、みんなでその通路をわたって、射撃場に逃げた方が早くねえか」
「そうすると、この建物を《置いて》ゆくことになる」
「『置いて』って」
「まあ、とにかく一度、話し合いをしてからだ」
「まさか!無理だ!ダニーは『話し合い』なんてできるあいてじゃねえよ!」
おれの大声に、先をおりていたジャンがたちどまってふりかえる。
「ジョー、それをいうならきっと、『ミーティング』だろ。おれたちが仕事の前にするやつだ。下に行ってショーンたちも交えてから、全部説明してくれよ」
ジャンに抱っこされてるジュニアが、短い指をたててジョーをさし、にっとわらう。ジョーはどうでもいいようにそれをはらうしぐさをした。おれはなんだか寒気におそわれていた。




