『 ゆうれいか』
ゆっくりとあがってきたエレベーターの《かご》のなかに、濃い金髪の頭がみえ、すぐに黒い短髪の頭もみえてきた。
ふたりとも腕をくみ、しらけたような顔で、やっとかよ、と息をつく。
どうしたと聞く前に、格子の扉をあけたジャンがはなしだす。
「 あがってた階段がつぎのフロアでいきどまりで、しかたなくそこのフロアに足をふみいれたけど、そこで階段が消えた。どの部屋のプレートにも数字はないし、ドアもあかなくていやな感じしかしないところに、勝手にエレベーターが迎えにきたから、 ―― しかたなくのった」
「のったらまた勝手に上にうごいて階数表示は五よりうえをさしたままで、とまらねえし、六階分フロアを通り過ぎたら、ようやくここだぜ」
ケンが、なんだか左手を握ったり開いたりしながら楽しそうににやける。
おまえらずっとここにいたのかときくジャンに、ショーンがさっきまでのことを説明する。
ガゴン
また、その音がして、みんなでふり返って見たエレベーターの《かご》に、黒いスーツの男がのっていた。格子の扉もしめられないままで、いやに《かご》がゆれて、モーターの音がしているが、動いてはいない。
「おいまてよ」
トッドがかけ寄ろうとするのを、ケンが腕をつかんでとめる。
みんなにみつめられた黒いスーツの男は、腰をまげて会釈すると、「それではのちほど、用意がととのいましたら」と背をのばしてほほえんだ。
「『用意』?なにの用意だよ?」
トッドは腕をつかむケンにきくが、ケンはまゆをあげてみせた。
「 みなさまがおさがしの、『地下』へ、ご案内いたします 」
約束した男はいきなり背をむけ《かご》の奥の鏡へむけて歩き出すと、そのまま、何の抵抗もなく鏡のなかへとはいって消えた。
《かご》のゆれはとまり、モーターの音もいつのまにか消えていた。
「 ―― ・・・だから、幽霊だっていったんだ」
最初に口をひらいたのはショーンだった。
「幽霊じゃねえと思うが、幽霊の方がいいような気がするな」
ジャンがじぶんの頭をかきまわすようにしてうなる。
「むかえに来るなんて、気がきいてるじゃねえか」
ケンがトッドをはなすと、にぎりこんでいた左手をひらいてふった。
おれとトッドは口をあけたまま顔をみあわせていたが、「・・・ゆうれいか」と、先にたちなおったのはトッドだった。
「 古いホテルの、幽霊に守られたお宝ってことかよ・・・なんてこった、こりゃきっと、すげえお宝だぜ?おいマックス、おれたちがその発見者になるんだぜ?」
シャツの胸元をつかまれてゆすられたが、おれはトッドみたいに笑うことはまったくできなかった。




