階段で見たのは
ようやく階段とフロアの『仕切り』になるところまでくると、そのアーチの下に立っているトッドがくちを半開きにして、おれたちをふりかえり、眉をよせた。
「 ―― フロント係の男が、のぼっていったぜ」
「は?」「いつだ?」
ショーンがトッドを追い越して階段にあしをかける。
トッドもいそいでのぼりながら、おれがここについたときだ、と足元をさす。
「―― もう、ケンとジャンはみえなくて、階段のほうから話し声だけ聞こえてて、おれもすぐ階段にいったんだ。そしたらよ、前を、黒いスーツ着た男がのぼってたんだよ」
これがマックスのいってたフロントにいた男だな
そう思って、おいあんた、と声をかけたが、まるきり無視されたという。
「だから、 ―― おれは一回階段をおりた」
「はあ?なんでだよ?」
トッドのうしろをのぼりながらはなしをきいていたおれは、どうしておいかけなかったんだ、とあたりまえのことをいった。
足をとめてふりかえったトッドは、なぜかおれの後ろをみながら、なんとなくだよ、と力なくこたえる。
おれもつられて後ろをふりかえったが、とうぜんなにもない。
ショーンはさきに踊り場まであがり、先におりかえしたところで、ぐう、とおかしな音をもらし、手のひらをこちらへむけた。
「そこから動くな」
「どうした?」
もちろんいうことを聞かないトッドはいそいでのぼり、ショーンとおなじようなおかしな音をあげてから、なさけない小声でいった。
「なんだよ?どういうことだ?こんな長い階段のわけねえだろ」
おれはあのとき見た階段をおもいだす。
いや、あれは幻、のはずだ
だが、トッドの肩をつかんでみあげた階段は、幻ではないはっきりした状態で、まっすぐどこまでも続いていた。




