いろんな匂い
「だろうな」
ケンがにやけた顔をこちらにむける。
「コルボク、そのいいわけは、朝飯を食ってからきいてやる」
ショーンがスプーンですくった豆をくちにいれた。
「二人とも、おれと同じフロアの部屋だから」
ゲイリーが指先で到着した男たちに投げキッスをおくる。
「とにかくジャン、先に荷物置いてきなよ」
ウィルがおれの正面に立つ男にプレートのついた鍵をなげわたす。
気をとりなおしたように、「ジャン・クレイグだ」と自己紹介した男は、荷物をかつぎエレベーターにむかった。
だが、吠えていた男はまっすぐテーブルにむかってきた。
「ボス、ほんとうだ。それに、なんだか建物の中まで《悪い精霊》に近い匂いがする」
毛皮の帽子をとり、ショーンの隣に座って顔を近づける男が、『ボス』の皿にのった豆やパンの匂いを動物のようにかぐ。
「あのね、コルボク、この朝ごはん、ほとんどレイが作ってくれたやつなんだけど」
むかいに座るゲイリーがゆっくりいいきかせると、はっとしたようにレイをみた。
レイはようやくトッドからはなれたジュニアを抱きなおしたところだった。
「 そうか、それならしかたない。『女神』には《悪い精霊》がつきまとう」
大きな息をつき立ち上がったコルボクに、いいかげんその呼び方やめてよ、とレイが困った顔をする。
「いや、おまえはおれが知ってる『姿なき女神』とおなじ匂いをしてる。だから、いつでもどこでも《悪い精霊》に狙われるんだ。知ってるだろう?雪山にだって、さまよっている《悪い精霊》はたくさんいる。今夜バートがいないなら、おれがいっしょに寝てやる」
この申し出に男たちが一斉に笑い声をあげ、おれがその添い寝の写真を撮ってやる、とケンが申し出る。
レイが赤くなり、子どもじゃないから平気だよ、というのに、ショーンが手をあげ、おれもその『添い寝』に参加する、と言い出す。
どうやらレイは、この男たちにいつも子ども扱いされからかわれているようだ。




