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かつての英雄、大罪人になる  作者: 紅白翡翠
第一章
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大罪人の真実②

 衝撃の言葉を聞いたアルフィナは興奮した様子でエリオに詰め寄る


「自分の城に火をつけてまで……そこまでして王はあなたを大罪人に仕立て上げたというんですの!?何のためにそんなことを!?」

「己の地位と権力を護るためだ。王は俺という“英雄”を宮廷賢者として自分のお膝元に引き込むことで、己の威信を確固たるものにしようとした。それが叶わないなら、自分より名声が集まり得る“英雄”なんざ邪魔な存在だったんだろうよ」


 よろめくように一歩引くアルフィナ。血の気が引いた顔には「信じられない」と書いてあるように見えた。


「そんな……たったそれだけの理由で……」

「……これが五年前の真実だ。ま、信じるか信じないかはお前次第だがな」


 重たい雰囲気を払拭するように、エリオは肩をすくめる。


「話は終わりだ。風呂入ったんなら後は適当に過ごしてろ。こっちはお前の妙ちくりんな頼みのせいで忙しいんだ」


 エリオはしっしっと手で追い払う動作をする。

 しかし、アルフィナは顔を伏せたまま動こうとしなかった。


「……あなたは、あなたにそこまでの仕打ちをした王に復讐したいとは思わないんですの?」


 話を終わらせたつもりだったが、思わぬ問いを投げ掛けられた。

 エリオは顎に手を当てながらしばらく考え、それから答える。


「そんなことも考えたかもしれねえ……が、今はもうどうでもいい」

「…………」


 アルフィナは顔を上げない。

 更に具体的な答えを求められていると考えたエリオは、こう続ける。


「俺はたくさんの期待と希望を背負って戦ってきた。自分の意思とは関係なく、人々は俺のことを英雄と呼んで命を預けてきた。そうやって背負い続けて、背負わされ続けて、戦って、戦いぬいて、解放されたいと思っただけでこのザマだ。なんかもうアホらしくなっちまった。なら最初から嫌われていた方が気が楽じゃねえか」


 期待や希望は時として力になる。

 しかし時として重荷にもなるのだ。

 “英雄”であり続けるということは、そういった重荷を背負い続けるということだ。

 きっと、それを苦にしない者こそ真の“英雄”なのだろう。

 残念ながらエリオはそうではなかった。

 宮廷賢者の任を断ったことがその証だ。王の真意など関係ない。確かにその時、エリオは人のため国のためではなく、自分のために生きることを選んだ。

 それが“大罪人”となる悲劇を生むとも知らずに。


 魔王を倒したエリオには天性の魔法の才能があったかもしれない。

 だが、決して、“英雄”の器ではなかったのだ。


「……今更英雄に戻りたいとも思わねえ。なんだかんだで今の生活も静かで快適で気に入ってるしな。だから復讐なんて面倒なことは考えてねえよ」


 最後に「まぁ、一発ぶん殴ってやりてえとは思っちゃいるがな」と付け足し、エリオは冗談めかして笑う。


「…………」


 しかし、アルフィナは未だ俯いたまま言葉を返してこない。


「……おい、さっきから黙ってどうした?」


 様子がおかしい。

 そう思ったエリオが次の瞬間に見たものは――アルフィナの瞳から流れ落ちる、一粒の光だった。


「は……!?お、おい!どうした!?なんで泣いてんだ!?具合でも悪いのか!?」

「いえ……いえ、ごめんなさい。そういうわけではありませんの」


 すぐに指で涙を拭い、顔を上げたアルフィナの眼は既に赤くなっていた。


「……わたくし、何も知りませんでしたわ。あなたがどんな目に遭ってきたのかも、どんな思いで過ごしてきたのかも。それなのにわたくしはあなたが大罪人と呼ばれているのをいいことに、自分の都合のためにあなたを更に貶めようとしている。そんな自分が……情けなくて……」


 唇を噛み締めながらぐすぐすと鼻を鳴らし、アルフィナは更に涙で顔を濡らす。


「……変な奴だな、お前」


 今までの話は全て嘘かもしれないのに。

 自分の都合の良いように改編した作り話かもしれないのに。


 大罪人と呼ばれる男の話を信じ、涙まで流して見せる。


 そんな疑うことを知らない愚かで――まっすぐな少女。

 なだめるようにエリオは、その頭に手を乗せる。


「何も知らなくて当然だろうが。それに、お前の頼みは俺が自分で聞き入れたんだ。お前が気に病むことは何もねえよ」

「エリオ……さん」

「ま、ちゃんと見返りもあるしな。お前の親父からいくらでもふんだくっていいんだろ?」


 エリオは歯を見せて笑う。それを受けたアルフィナは一度顔を伏せ、手の甲で顔を擦るように涙を拭くと、再び顔を上げる。


「できれば破産はしない程度に頼みますわ」

「……意外と強かな奴だな」

「生活できなくなったらわたくし、何度でもあなたの元に泣きつきに来ますわよ」

「なんだその脅し文句は……。仕方ねえ。常識の範囲内に収めといてやるよ」


 そして、二人の笑顔が交差した。

読んでいただき、誠にありがとうございます


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