アンダーソン家
「エリー、今日はどちらに向かう予定でした?」
「お嬢様、今日は’敏捷’のアンダーソン家でございます」
アンダーソン家。私の前世でも関わりがあった。代々もの凄い数の武勲を立てている。行軍速度が異常。戦闘機会が多すぎるせいか、当主は代々短命である。アンダーソンの血筋は力でなく手数を重視した戦い方をする。
昔の当主は好青年だった。そう、彼はとても紳士的だったなーと私は思う。まあ、三百年前の話だけど。
「鬼気迫る剣筋ですね」
「あの方には何か?」
「なんでも友人を内乱で失ったそうで」
サミュエル・アンダーソン。私と同年代の騎士。若干血色が悪いような気がする。しっかり休息されているのでしょうか?
数年前に他国の扇動により起こった内乱で、仲の良かったご友人を失ったらしい。それからは復讐のために厳しい鍛錬を課しているそう。
復讐を目的とする方はあまり好ましくない。私は休戦中の国に対して攻撃しても許されるような権力は持ってないし、私の騎士になっても彼のメリットは大きくないはず。
ふと彼が相手の模造剣を弾き飛ばし、それがこちらへと飛んでくる。彼らも取りに来るようだった。
つい息をのんでしまった。髪型こそ違うが、サミュエル様の人相がかつてのアンダーソン家当主と瓜二つだったからだ。同一人物だと言われても、騙されてしまいそう。
「ご無事ですか」
声まで彼とよく似ている。しかし、サミュエル様はこちらを覗き見ると態度を変え、
「ここは剣を持たない者が来るような場所ではない」
「エリー、帰りましょう」
「お嬢様…」
彼によく似た三百年前の当主は、もっと女性に優しかったのに。まあ、別人なのだし、そんな事を考えても無駄である。そうとわかっていても、ヘンリーが病んでしまったような姿は私には耐えられなかった。