ギルフォード家後
明日も
「エリー、少し休みたいわ。一人にして頂戴」
「承知いたしました」
侍女のエリーは私に甘いから、大抵の要望を聞き入れてくれる。私はこっそりと馬車から出た。エリーと行動しないのは、私の社会的立場を判断しにくくするため。顔も知られていないような箱入り娘です。
メリアム様が、木陰でひとりで座っている。休んでいるだけなのに堂々としているのは風格?彼は私の父の難題を捌けるような方か、探らなければ。話しかけ方は?不意に木の葉が舞い、彼の頭の上に。
「まだ緑の葉が落ちてしまいましたね」
メリアム様はこちらを不審げに見ている。
「どちらのご令嬢でしょうか」
「私は秋までに必ず貴方に出会うでしょう。自己紹介はその時にでも」
「そうですか」
「既に戦場に出ているとお聞きします。あの葉のように舞う命もあるのでしょうか」
「それは。いえ、貴女のようなひとにはわからないでしょう」
「それもそうね…」
私は木の陰に隠れた。
「権力者はお嫌い?」
「私は命に貴賤がないと思っている。四大騎士の当主候補であっても先陣を切って戦う所以だ」
「要人の護衛はお得意?」
「私の周りには護衛を必要としない方ばかりだ。攻勢に出るのは好きだ」
「ひとりの貴族と五人の乞食、どちらかを敵軍から救うとしたら?」
「無論、五人の方、だ」
私は陰から出て、軽く礼をする。ここで初めて目を合わせる。
「また会いましょう」
何かに気づきそうなメリアム様をうしろに、私は馬車へと戻った。
「困りますよミラ様…。勝手に出歩かれては」
「御免なさいエリー、すぐそこに美しい蝶々が舞っていたので」
「もう少し見ていかれますか」
「いえ、もういいわ。帰りましょう」
メリアム様は好印象だった。愚直な感じが安心できる。ただ、つまらない事で傷を負ってしまいそうで心配…。私がたとえ他の騎士と行動を始めたとしても、すぐにどこかで彼とは会いそうだ。
もし私の守護をお願いするのならば、私の命の重さを説得して伝えないといけないのが少し手間?人徳はありそうだから、指揮は上手くいくはず、しかし策に気づけなさそう。冷静そうな見た目と声に反して、猪武者かもしれない。
他の騎士たちは彼より強いのかしら。