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終章

 小さく息をし、深い深い眠りにつき始めた。

 そんな彼のことを、私は黙って涙を流して見ていることしかできなかった。時折その栗色のきれいな髪を撫でるだけだった。

 黒い瞳が光を反射して青みがかるのを、もう一度見たい。

「伊織くん」

 思わず名前を呼んでも、返事は小さな寝息だけ。彼のまぶたの向こうの、きれいな瞳を見ることはできなかった。

「朝飛くんに似てると思って、好きになったのに…」

 全然似てなかった。

 伊織くんは朝飛くんに比べて、少し卑屈な性格だった。

 伊織くんは朝飛くんに比べて、強がりだった。

 でも、伊織くんは結構やきもち焼きだった。

 伊織くんは私にいっぱい『好き』をくれた。

 伊織くんはずっと、ずーっと優しくて、いっぱい泣いちゃったけど、無理に泣き止ませようとしなくて、それは優しさに溢れてて…。もっと、

「もっと一緒に…いたかったのになぁ」

 二人いる部屋に私一人のつぶやきが落ち、虚しさが支配する。

 眠り始めてから小さかった寝息が、どんどん小さくなっているのに気がついた。

「っ」

 思わず彼の頬に手を当てた。

 よかった、まだあたたかい。

 手を当てたまま、有名な童話のワンシーンを思い出す。毒で死んだように眠った姫に、王子がキスをして目を覚まさせる。立場は逆だけれど、というか私がしたいだけだったりするけど、顔を近づけて唇を合わせた。

 けれど、彼の目は開くことはなかった。彼は少しも動いてくれなくなった。

「そう、だよね。当たり前か…」

 強がりの独り言が、誰の耳にも届かず落ちる。

「っぅう、っああぁあ――」

 そうなることなんてとっくにわかっていたはずなのに、涙が止まらなくなる。

 明日、君が目を覚まさないことを、会えないことなんてわかっていたのに、わかりきっていたのに、なんであんな嘘をついたんだろう。


『今日はもう寝ちゃっても、また…明日、あえっ、るから。だから、もう、今日は寝ていいよ』


 馬鹿だ。

 私は最後に大好きな伊織くんに嘘をついた。彼のためでも嘘をついた事実は変わらない。

 ――あぁ…。

 違う。私は彼に嘘をついたんじゃないや。怖かったから、自分に嘘をついたんだ。自分の強がりのために、ついた嘘は当たり前のように頭の中に反響しては消えた。私は最後に、彼に大きな嘘をついてしまった。

 馬鹿だなぁ。ほんと。

「大好きだよ。なんで、なんで死んじゃうの?」

 熱が消え始めた彼の頬に、涙が落ちた。

 涙をぬぐおうと指を伸ばしたら、それはすごく熱くて、彼の頬から拭いたくなかった。そこから、熱が戻ってくれたら―。


 なんて、そんなの叶わないことくらい、分かってる。


「大好き。大好きだよ。本当に大好き。だから、死なないでほしかった。でも、それも叶わなかったから。でも、私は君と約束はしてないけど、君の…伊織くんの分までちゃんと生きるから。あなたの…こと、伊織くんと過ごした時間は絶対に、絶対に!忘れないから…!」


「伊織くんがきれいって言ってくれたから。伊織くんが見れなかった、きっと…伊織くんが一番好きなこの色で、いるから」

 私は君が思っていたよりずっとずーっと、伊織くんのこと大好きだよ。





 ただの思い出に過ぎなかった、何の意味もなかったこの色を、意味のあるものに、大切な思い出の一部に、大好きにさせてくれて、ありがとう。

「青色少女は灰色少年に恋をする」はこれで完結です!最後まで読んでいただきましてありがとうございます!書き始めた日付を見たらなんと2月…自分の執筆速度には涙が出そうですね、はい(笑)

ちょっとした裏話を。実は伊織の持ち物はほとんどが青系統の色なんです。(描写はしていないんですが)彼曰く、というか本人は気づいてないんですけど、きっと青が灰色になった色が好きなんでしょうね。だから夏澄は最後に『伊織くんが一番好きなこの色(青)』って言ったんです。

いろいろ拙い描写や表現が多かったと思いましたが、あたたかい感想を送ってくださった皆さんには感謝しかありません!本当にありがとうございます。


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