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 妊娠中は色々な事を制限される。悪阻がひどかった時はさほど気にならなかったが、治まると暇を持て余した。図書室で今までの住人の日記らしきものが見つかったので、他にもないか侍女たちを総動員して確認したら、色々と面白いものが見つかった。例えばフェッセンの幼少期の手習いを兼ねた日記。こちらは既にヒューズ夫人に取り上げられ、侍女たちに泣いて「読まないであげて下さいませ」と頼まれた。

 本人に連絡すると王弟と共に駆けつけた。

「な、中身っ」

「読んでおりません。忠義者のヒューズ夫人と可愛くて優秀な侍女たちに感謝してください」

 見つかったのはそれぞれ三冊。まだある筈だと探し始める男二人と駆り出される侍女たち。

 この分だと暫くは時間が空いたら、探しにやってきそうだ。

「ねえ、あと何冊、見つかると思う?」

 サンルームに移動して、一人がけの椅子に腰をおろす。

「一通り探した後ですから」

「そうね。でもあの方たち、納得しないわよね」

「はい」

 ヒューズ夫人が香ばしいお茶を淹れてくれる。妊娠中に飲んでも害のないお茶だ。最近、この国に輸入し始めたそうで、独特の匂いがあるが、貧血改善にもよいと人気が出てきている。

「ところで、ご生母さまの手記らしきものが見つかってるけど、わたくし、読んでも大丈夫かしら?」

「……いいえ、出来れば」

「読まない方が?」

「はい」

「わたくし、大抵の事は許容範囲よ、わたくしの父なんて、孫もいるのに、娘よりも若い愛妾に子を産ませているのだから」

 生母の生まれは公表されていない、となれば、夫のいる女性を略奪したか、血が近すぎるのか、社交デビュー前の子どもだったのか。

 この離宮は女の牢獄のようなもの。素性を公に出来ない女が囲われてきたとマリアは推測している。他国の巫女だったという女性の日記を読んでいると色々と合点がいく。

 国王、王弟は幼少期に住んでいて懐かしい、いい離宮だと言っていた。あの二人は些か単純すぎる。庭で遊ぶのに、玄関まで行かなければならない不便さを知っている筈なのに。それとも自分で窓を開ける習慣がないからだろうか?人に命じれば窓は開く。自分が不便ではないから気づかない。

 王妹のものは何も見つかっていない。この離宮から去る時、全て持ち出したのか、処分したのか。この離宮よりも他によいところがある、と主張していたから、自分の母親の立場も理解していて、マリアを気遣ってくれたようだ。

「あなたもここで遊んだ事が?」

「はい。と言っても、居住スペースは立ち入った事はございませんでした」

「そう」

 重くなった空気を吹き飛ばすように、別の話題にうつりたいが良い話がない。第一王子夫妻の調査を聞きたいが、教えてくれないのは重々分かっている。愛人の動向なんて面白くもない。以前、フェッセンの夜のお勤めに関して女性を斡旋した方がいいか相談したら、いい年なんですから必要ならば自分でなんとかするでしょう、と突き放されてしまった。自分で探して妙なものに引っかかる位なら、安全な方を紹介した方がよいと思うのだが。

「そろそろ誰か連れ戻しにやってくるかしら?」

「夕刻にはお帰り頂きたいものですが」

「そうよねえ」



 カールスバーグへ一時帰国していたキュリー夫人が戻ってきた。マリアの手紙を届けに行って貰ったのだ。検閲を通したくないからだ。一組の政略結婚の提案。妻とはそのうち死別か離別の予定だなんて手紙、見せられない。

「王太子妃殿下より、調整しておくとの事です」

「そう、良かったわ」

 モンドバークの次期侯爵は政略というものも、そして自分の後継者の重要性も理解している。性癖に逆らって努力したのだ。褒美に血統の良い、そう一国の王子を与えるのはどうだろう?さすがに駄目だと思っていたが、実父が許可したのだ。

 きっと彼は喜んでくれるだろう。

 その場に居合わせられないのが残念だけど、彼ならばきちんと報告してくれる筈。

「その日が楽しみだわ」

 目立ってきたお腹を撫でながら、取り巻きたちをどうしようか考える。まずは取り巻きたちの婚約者から。あの娘達はどう動くだろうか。

 彼女たちの親はどう動くのか。

 第一王子を支援しているのは、取り巻きたちの親と、その婚約者たちの親だ。第一王子が王位を継ぎ、自分たちが引き立てられると夢を見ている。

 そんな日は来ないと早々に気付かせて離れさせる。

 どれだけ離れるだろうか。どれだけ道連れになるだろうか。

「妃殿下、悪い人みたいなお顔をしてますよ」

「あら、失礼」

 キュリー夫人に窘められ、笑顔を作った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がしたたかで好きです。 母国は手放して勿体無いことをしたなと思いますが 立場が人を作る面もあるので、母国では片鱗はあってもこうはならなかったでしょうから難しいですね。
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