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 身籠っていた。

 運の良い事に、早産だったとごまかせる。ああ、あの夜に身籠ったのか、と誰もが思うだろう。お気の毒だと言いながらも、国の為に是非、健康な御子を、と望まれる。

 呆れたように強運だな、と言ったフェッセンにマリアは高笑いをする。

 他人事みたいに言っているが、これは二人の運だ。面倒な小細工をしなくてもよくなったという意味も含めるなら、形式上のマリアの夫で、子どもの父親とされる第二王子も運が良い。

 以前から段取りをしていたのか、マリアに新たな離宮が与えられた。いくつかの候補から警護がしやすいからと選ばれたのは、王子二人の離宮から離れた場所にあった。この離宮から出る時には、近衛騎士が複数、ついてくれる事になった。これで愛人に悩まされる事も減るだろう。

 広いサンルームがあり、温室のように鉢植えの植物が幾種類もあり、花の時期になるとここでお茶会を開催する事もあったそうだ。

 居心地の良さそうな図書室には、幼児用の絵本もたくさんあり、聞けば国王兄弟が幼少時、生母と暮らした離宮だったと知った。

「まあ、図鑑もたくさんあるわ」

 手にした図鑑は百合専用のもので、繊細なタッチで花弁一枚一枚丁寧に描かれていて、見ごたえがあった。

 書籍を守る為か窓は最小限だが、日中ならば十分だ。壁一面に書棚が置かれているが、あまり整理されておらず、図鑑と同じ棚に育児本が並んでいる。出入りは一階の廊下からだが、中央に上階へ上がる階段があり、部屋の大きさに沿って回廊が作られ、二階部分の書棚も手が届きやすくなっている。

「ここの管理ってどうなっているのかしら?」

「現在は清掃以外はされていないようです」

「そう」

 以前の住人は、もういない。国王兄弟の生母は既に亡くなっていると聞いている。先王の正妻は存命だが、与えられた領地に引きこもり、社交には出てこないそうだ。

 シュヴァーベンの王室も一見、王子二人以外は問題ないように見えるが、やはり公に出来ない歴史があるのだろう。この離宮もその一つのようで、可愛らしい内装、温室のようなサンルーム、居心地の良い図書室と贅を尽くした素晴らしいものだが、一階から外に出ようとすると正面玄関しかない。一階、二階共にはめ殺し窓になっていて、バルコニーもない。庭に出ようとすると、玄関からしか行く事が出来ない。換気の為に脚立が必要な位置にいくつか開ける窓は作られているが、全てが小さく、出入りの事など考えられていない。無論、使用人用の出入り口は他にもあるようだが。

 どのような経緯でこの離宮が作られたのか、国王の生母はどうしてこの離宮に住んでいたのか。

 警護しやすいからと言っていたが、設計の段階で死角のないように、迷い込む者がいないように、検討されていたように感じる。

 興味深い。

 マリアの好奇心が疼いた。

 こまめに修繕はされているから、住む事に不便はなさそうだ。ただ離宮の清掃、管理は大変そうだが。

 暫くは夜会も公務も制限されている。参加出来るのは小規模なお茶会で、参加者もある程度、制限されるだろう。




 アンネットも身籠っていた。

 体調に不安はないという事なので、話し相手に来てもらい、サンルームに案内した。

「懐かしいわ」

「あら、ここに来た事が?」

「はい。わたくしが社交界デビューした時にお祝いに、とローゼ様がここでお茶会を開いて下さったんです」

「そう」

「ちょうど白の薔薇が咲いていて、帰る時、一輪……」

 その頃はまだ友好的だった婚約者が摘んで渡したのだろうか、寂しげに微笑んで口を噤んだ。

「では、わたくし達が身軽になって落ち着いたら、またここでお茶を頂きましょう。今は花が少なくて寂しいですけど、その頃に合わせて今から育てさせますわ」

「はい、是非」

「シャロン様は次、いついらっしゃるかしら?ああ、ローゼおばさまもお誘いしましょうね」

 アンネットにとって元婚約者は辛い記憶だけでなく、良い思い出もあるのだろう。結婚したくないと言っていたのに、結婚し、今ではすっかり立ち直っているように思う。彼女から夫の話を聞いていると、楽しいと感じるのは、アンネットが幸せそうに笑っているからだ。

 さて、シャロンはどうだろうか?

 マリア個人が不愉快な思いをしたから、第一王子夫妻にはそれなりに笑いものになってもらおうと考えている。それで溜飲を下げてくれればよいけれど。


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