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「父上、では私の立太子はいつ行いますか?」

「そなたの?」

「はい、兄上がこうなった以上、決定なのでは?」

 意気揚々と語るが、フェッセンを始めとした同席している人間の視線は冷え切っている。それに気づかない滑稽な男は鼻息も荒く宣言する。

「父上のような立派な王になってみせます!」

「兄上、立太子の件は早々にお決めになった方が本人の為でしょう」

 王弟の言葉に大きく頷くのは自分の味方だからと信じているからだろう。

「しかし」

「兄上とて十の時にされたのです。オイゲンとて出来るでしょう」

「オイゲンだと?」

「何も分からぬ子供に期待するのは酷でしょうが……」

「貴族達の支持は既にオイゲンにあります。マリアの産んだ御子ならば、正しく生きるだろう、と」

 王妹も続いた。

「え、何を仰って……」

「ヘッセンもヒンゲンも、誰も期待しておりません。そうでしょう?国が決め、王妃に相応しくと教育を施した女性を蔑ろにするような男など、信用出来ない」

「そうだな。……オイゲンの十の誕生日に立太子するよう、準備をすすめよう。よいか、マリア」

「ええ、わかりましたわ。皆様に改めて誓います。オイゲンが人の道を外れ、相応しくない、更生も見込めないとなりましたら、わたくし、母として責任を取ります」

 王弟、王妹共に満足そうに頷いた。

「そんな!私が子供に劣ると!?」

 ヒンゲンが立ち上がって叫んだ。

「そうだな。むしろそなたは誰に支持されていると思っている?」

「え?それはどの貴族も」

「愚かな。娘を傷つけたとアンネットの親族は思っているだろうし、女にうつつを抜かして、他国の王女を蔑ろにし、カールスバーグとの外交に不安を感じている役人や商人は山程いるだろう」

「し、しかし!」

 ぎり、と歯を食いしばる音が聞こえた。ヒンゲンはマリアを睨みつける。

「この女が産んだのは本当に私の子ですか?」

「今更、何を言う」

「ノンナとは子ができる気配がないのに、何故、この女がたった一度だけで!どう考えてもおかしいでしょう!」

「ああ、なるほど。ご自分の子種についてお疑いなのですね。だから、出産経験のある方を閨に……」

 愛人との関係はいまだ続いている。同時進行で別の恋を始めたのかと思ったが、違うらしい。

「何故、それを!?」

 知られないように気を使っていただろうが、手配をする人間、後始末をする人間、係わる人間が多ければそれだけ秘密も漏れやすい。驚いているのは本人だけで、皆が知っている事だった。

「わたくしの乳兄弟の娘がマリア様の侍女をしてますけど、あの夜、悲鳴一つ上げない、気丈な方だと話してましたわ。それに、どんな時でも一人になる事はなく、政略結婚の妻の見本だと褒め称えてました」

 王弟夫人は優雅に扇子を広げて軽くあおいだ。この乳兄弟の娘というのは、最初からマリアの侍女として仕えていて、あの夜にはマリアの寝巻きを破って乱暴された風に見せかけようとした侍女だ。

「仮にあなたに子が出来ても、誰もあなたの子だと認めませんよ。そうでしょう?きちんと管理されていない女ですもの。そう、あの犯罪者となったあの女のように」

 銀色の髪をした王弟夫人は、怜悧なと評される美貌の持ち主だ。その彼女に冷たい視線を送られ、ヒンゲンは震えた。ストン、と腰が抜けたのか床に蹲った。

「じゃあ、どうしてノンナに……」

「決まっているだろう。その娘に子が出来たとして、認めるつもりはない。最初から決めてしまえば、どうとでも出来る」

 暗に女に避妊薬を飲ませている、とフェッセンは言ったが実情は両方に飲ませているのだろう。多くは知らないが、第一王子夫妻も同様だろう。

 宰相が扉近くにいる近衛兵に向かって頷くと、二人やってきた。

「第二王子殿下、暫くの間、静養などいかがですか?そう、気候のよい保養地などに」

「それは……」

 にこりと微笑んでいるが、目は笑っていない。彼もまた、第二王子に面倒をかけさせられた人間の一人だ。

「ノンナ嬢と一緒に。ええ、アンネット様でなく、その方を選んだのはあなたです。羨ましい事ですよ、全てを捨てて恋に生きるなんて」

 恋も国も、全てが手に入るわけないでしょう、とヒンゲンの耳元で囁く。

「さあ、部屋へお連れするように」

 先程の第一王子と同様に部屋から連れ出される。


 オイゲンが、マリアの産んだ子が将来の国王になり、マリアが国母となる事が決まった瞬間だった。





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