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久しぶりに庭に出て散歩をした。日差しは眩しく感じたが直になれた。
このシュヴァーベンに嫁いできてもうすぐ二年になる。子供は順調に育っているし、マリアの体も次の出産に問題ないと診断されている。夜の勤めは再開してはいないが、フェッセンとは時折、一緒に眠るようになった。眠っている我が子を一緒に見に行く事もある。
母国、カールスバーグでは、王太子が謀反を企て、そのまま即位したと知らせがあった。実権はほぼ握っていたようだから、何も問題ないだろう。
父の国王だけでなく、腹違いの兄弟姉妹の半分は、殺害、もしくは自害したという。あまりにも多すぎて、マリアには把握出来ていないが、見知っている年の近い姉妹も大半はもういない。
マリアがもし、シュヴァーベンに嫁いでなく、あの国にいたらどうなっていただろうか?シュヴァーベンでもマリアの扱いについて問題視されていたが、新国王はシュヴァーベンに使いをだし、マリアの産む男子、一代に限り、国王の実子、及び今後生まれる孫の次の王位継承権を与えてくれた。継承権があるだけで、今後、継承順位は下る一方だが、オイゲンの即位にカールスバーグは後押ししてくれるだろう。
腹違いの妹に対して破格の扱いだった。
可愛がられた記憶はないから、半信半疑だったが、直筆の書面を見せてもらったから間違いではないようだ。
この件があってから、より一層、マリアは丁重に扱われる事になった。
実父が殺されたと知っても、冷たいようだが、なんの感慨も浮かばなかった。関わりの薄い父親。誕生日にカードをくれるが、毎年のように筆跡が変わるから代筆だろう。
その一方で、腹違いの兄は、兄と呼んだ事はないが、公務をきちんとこなせば、見苦しくない程度の身支度が整えられるだけの事はしてくれた。婚姻の時も、嫁入り支度を整えてくれたのは、王太子夫妻であって、父の国王ではない。
事情があるのかもしれないが、存在感の薄い父親より、身支度を気にかけてくれ、マリアの息子に母国の継承権を与えてくれた父親を殺した人を優先にする。
シュヴァーベンに派遣されている大使夫妻を呼び出し、即刻、新国王に忠誠を誓わせた。モンドバークに書面を送ったが、既に謀反に加担していたそうだ。
薔薇のアーチの側に置かれたベンチに腰掛けると、肩にショールが掛けられた。寒くはないが、体を冷やさないようにという事だろう。
「妃殿下、ご報告したい事が」
「なあに?」
「第二王子が閨に二人、呼んだそうです」
「まあ、そうなの。あの恋人はまだ続いているの?」
「はい」
「身元は?」
「二人共、子爵家出身で、夫と死別した為、実家に戻っています」
「そう、お子様は?」
「嫁ぎ先にて養育されています」
「この事、公になっているの?」
「いえ、そこまでは」
出産経験のある未亡人と関係を持った、という知らせにマリアは驚いた。あれほど真実の愛で結ばれていると豪語している男が、恋人以外を愛せたのか、と。公になっていればあの恋人はどのような反応をしただろうか。野次馬根性が少し、芽生えた。
「では、相手の女性の動向は定期的に確認しておいて。面倒になりそうなら、対処するわ」
「かしこまりました」
妻の出産の時期に夫がよその女性と関係を持つのはよく聞く話だ。しかし、元々、恋人のいる男がこれ以上、愛人を増やすとは。
公にはなっていないという事だが、ヒューズ夫人は知っているのだ。他にどれだけ知られているのか。
良かったと思うのは、今更マリアに愛人を増やした夫を許すように諭す人間がいないという事だ。マリアは愛人が増えても構わない。ただ、もう暫くしたら、色々と忙しくなるから、面倒な事は増やしたくないだけ。




