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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

森カフェの英雄

作者: 桜花 遥
掲載日:2023/03/03

 かなりな短編小説です。暇つぶしにコーヒーでも飲みながらどうぞ読んでいただけると嬉しいです。

 高速道路を降りて、しばらく山道が続いていた。

流行りの曲を聴きながら、ふとガラスの向こうの空を見ると、僕の気持ちとはうらはらな、気持ちいい春の爽やかな空が広がっていた。

「皮肉だな」

そう呟いて、昨日の事を思い出した。

『また、ミス? もう、あなたのフォローはウンザリなんだけど』

 きつい目をしたわりと美人な上司が、ため息をつきながら僕にそう言った。

僕は壊れた録音機のように、『申し訳ありません』を繰り返すしかできなかった。

 威圧的なその上司は、いわゆるキャリアウーマンてやつだ。まだまだ男社会のこの古い会社で、それなりの地位にいるには、並大抵な努力ではなれないだろう。

 だからだろうか、彼女は出来ない男に対する当たりが心なしか強い。仕事よくミスする女性社員にはとても優しいのに。

 しかし、このミスは僕が仕事を頼んだその女性社員がやらかしたのだが、それを言うとまた、男のくせにどうのこうのと言われる。男性がそれを女性に言うと問題になるのに、女性はいいのか?とか思いつつも、僕は黙って口を閉じていた。

『もういいわ』

 最後は結局、投げやりなその言葉で彼女は締めくくる。

 そこまでは、いつもの事だと割り切れた。

 自分の席に戻るなり、隣にいた同僚が僕に憐れみの視線で、小声で話しかけてきた。

『こんな時に何だけど、こんなメールが出回ってるんだけど』

 そう言って見せられた彼あてのメール。

 ゛国達さんにだけ相談したいんですが、私、東 春樹 に、騙されて代わりに仕事させられたり、夜も無理矢理ホテルにつれこまれて……゛

 僕に対するいわれのない誹謗中傷がかかれていた。

『僕は君とわりと付き合いの長い方だから、これは嘘だと分かるけど、彼女、多分、同じメールを色んな人にしたり、女性の場合は、ランチとかの時に言いふらしているみたい』

 それを聞いて僕は、何で後輩の彼女にそんな事をされないといけないのか?と思って、ああ、そうか、と思い当たる事があった。

 彼女は自分の、事を可愛いと思っていて、いや実際、かわいいというヤツは多いのだけれど。

 僕には、付き合ったばかりの彼女がいたから別に気にも求めなかたが、ある日、そんな彼女に僕は告白されてしまった。

『ごめん、彼女いるんだ』

『えっ、別れたらいいじゃない』

 当たり前のように、そう言ってふたくされた彼女に僕は引いてしまった。

『ごめん、無理』

『何?彼女から脅迫でもされてんの? 私からの告白断るなんて、それしか考えられないんだけど?』

 わけのわからない事を言う彼女を否定した。

『ふぅん』

 それだけ、言って彼女は偉そうな、足取りで帰って行こうとして。

『あのさ、彼女いても夜可愛い女性が1人で帰ろうとしてるのよ? 送りなさいよ!』

 振り返るなり、そう言い放った。仕方なく送る僕を彼女は、何度も誘惑しようとした。

 腕をくんできて、ホテルに行こうと誘ったり。家まで着くと、中に入るように言ってきたので、僕は全てを断った。

 あれが、彼女のプライドを傷つけてしまったらしく、それからも彼女には飲み会の帰りとか、残業の後とか色々誘われたが、どれも断った。

 ただ、一度だけ、酔ってへべれけになっている彼女を、あの上司にちゃんと家まで送るように言われ、自分で鍵も出せない状態だったので、彼女のカバンから鍵を出して家の玄関に放置して、帰ろうとした。ら、“バンッ゛と入り口の玄関が勝手に閉まって、出ようとしたが開かなかった。外に誰かいるようだった。

 その時、酔っていた、はずの彼女に抱きつかれキスをされた。僕は男だから抵抗できるはずだった。

 しかし、その時は飲み会の、帰りで、お酒好きの上司にかなりのまされていたのもあって、僕の理性がそのキスで何処かに飛んでしまった。

 朝起きて、死ぬほど後悔した。いや、実際、今、自殺しようと、自殺の、名所に向かっている所なのだ。

 あの時、全裸で目が覚めた僕は、彼女を起こさないようにすぐに着替えて、慌てて、帰った。

 それからだ、彼女がその時いつのまにか撮っていた写真で僕を脅すようになった。僕は付き合っていた彼女には、土下座して事情を説明した。最初はそれでも、別れるとか怒っていたが、何日かして落ち着いたら、機嫌を直してくれた。

 が、それで僕たちが別れなかった事も、後輩の彼女の気にさわったらしく。僕と付き合う事を諦めたかわりに、彼女の仕事をことごとく僕がするはめになった。

 たった、一度とはいえ、彼女が悪いとはいえ、あの一夜の罪悪感から僕は彼女の仕事や雑用をした。しかし、周りには、彼女が僕の、仕事を押し付けられてるように言っているらしく、何度も、彼女の盲信してる男性社員から、呼び出され注意された。注意だけならいいが、酷い時は暴力もあった。

 それで、しばらく入院してる間後輩の彼女に任せていた仕事でミスがみつかり、それを僕が怒られていたのだ。

 最近、周りの、僕に対する見る目が益々冷たいものになりつつあるのを僕は感じていたが、まさか、そこまでするとは。

 いや、彼女ならやりかねないが。

 いつものように、暗い夜道を歩きながら、僕はそれでも、今日は大好きな彼女が僕を家で待っていると、気持ちを切り替えて玄関のドアをあけようと、して、あれっと思った。

 空いてる。おかしい。と、するとなにやら、僕の寝室から声がする。知ってる女性の喘ぎ声。ドアをあけるのを躊躇ってたが、ここでこうしていても、しかたがないと、ドアを開ける。

 そこで、裸の、2人と目が合う。

 僕の彼女と、僕をいつも心配してくれた同僚。

 それから、呆然とする僕の前に彼は彼女を、庇うように立って、2人して色々言い訳をしていた。

『彼女は悪くない』

『私が悪いの。あなたの事を色々相談にのってもらっててそれで……』

 悪くない? じゃあ、誰か悪いのか?オレか?あの悪女の後輩か? はたまた、パワハラ上司か?

 その後、僕は車に乗り込んで逃げるように出て来て、今に至る。僕は自殺の名所に向かっていた。何もかもが嫌になった。どいつもこいつも、カスだと思った。たった一夜の過ちの写真ごときで言いなりになっていた自分も。

 また、怒りで顔が熱くなったので、ふと、窓を開けた。森の爽やかな空気を纏った春風が入ってくる。

 それとともに、ふとコーヒーの薫りが、かすかにしたような気がして、見ると、ログハウス風のカフェが一件ポツンと建っていた。

 何故だか、ふとよってみたくなったので、車を止めて、中に入った。コーヒーの、香りが頬を撫でた。

 心地よいジャズが流れていて、あ、これ僕が昔好きだったヘレンメリルの曲だ。確かタイトルは、゛You'd Be So Nice To Come Home To゛は日本語で『帰ってくれたら嬉しいわ』皮肉なものだ。僕は帰ろうとした家から、逃げるように出てきた。

「いらっしゃいませ」

 カウンターにいる強面の渋いマスターが、おだやかな笑みで僕を、迎える。

 僕はカウンター席に、座り、コーヒーを頼んだ。

 センスのいいカップに入ったコーヒーを一口飲むと、何だか、ふっと、体の力がぬけた。そして、窓からみえる景色を見ると、何だか僕の悩みなんか、ちっぽけなように思えてならなかった。

「いい景色でしょう? 私はこの景色が気に入って、ここで店を開こうと思ったんですよ。大自然を前に本当に人間はちっぽけだ。だからこそ、自然とともに生きるのがそもそも生き物本来の姿ですから」

 そう言って微笑むと目元の皺がクシュとよって、僕なんかよりも彼は酸いも甘いも色々と人生の経験を積んでいるレジェンドなんだろうと思えた。

「僕の、悩みはちっぽけです。……だけと、あの世界が僕の全てで逃げ場がなかった。どうしたらいいかも知らなかった」

「今は、逃げて抜け出せたんでしょう?だからここへ来た。逃げるのは悪くはない。間違えてたら別の道を探せばいい。私も何度もやり直した人間ですから」

「別の道ですか」

「ええ、意外なとんでもない道があなたに向いてる道だったり、人生は実に意外で面白いですよ」

「僕に向いている道、今は考えられないけど。何か楽しそうですね」

「実は、私昔英雄と呼ばれた勇者でした」

 真顔でそう言うマスターに僕は、愛想笑いで返した。

「あ、信じてませんね。まあ、確かに、そうですよね。でも、本当なんですよ。別の世界では英雄でした。この世界ではただのジジイですけど」

 そうわらって、店の目立つ所に飾ってあった大きな絵に目をやった。その絵は、ゲームのRPGででてきそうな世界観の不思議な絵だった。

 タイトルは『天竜への挑戦』とある。確かに、ゲームのラスボスよろしく大きな竜が、果てしなく青い空に描かれている。そして、手前で剣を構えているヒーローは、どうもここのマスターになんとかなく似ているような気がした。

「これね、私が描いた絵です。休日に油絵を描くのが趣味でして、昔いた世界を描いています。あの場所に帰りたい訳ではないのですが、あの頃の自分を褒めてあげたいと思って。よくやってるよ。頑張った。仲間に裏切られても、恋人が死んでも世界の為によく戦ったよってね」

「英雄ですか。僕には無理たなぁ。自分の。事で精一杯で」

「何を、おっしゃる。あなただって英雄ですよ。訳もわからない怪物と戦ってきたのでしょう?」

 怪物と聞いて、あの悪女やパワハラ上司、裏切った2人を思って、プッと笑ってしまった。

「でも、負けちゃいました」

「負けるが、勝ちですよ。戦術には逃げながら勝つ方法を考える事もあるんです」

「逃げながら、勝つ方法を考えるですか。今の所、勝算はないんですが」

「いつか逃げてる間に見つかりますよ。なんて言ったって、人生は、長い。その間に状況もかわるんですよ」

「だと、いいですが。でも、負けるが勝ちですか。何か、今の僕にはしっくりくる言葉ですね」

「それは良かった。あ、もう一杯どうですか?これはサービスです。この種類のコーヒーは、ミルクとお砂糖が合うので入れてみて下さいね」

 そう言って、マスターは2杯のコーヒーを入れてくれた。いつもブラックだったが、砂糖とミルクを入れてみたら、甘くて優しい味がした。

 それだけなのに、僕の中で何かが変わった気がした。帰ったら、会社辞めよう。そういえば、最近起業した大学の友達に誘われていたな。連絡してみよう。

 なんだか、前向きな考えしか浮ばない。ついさっきまでの絶望感はどこへ行ったのか。

 「人生は2杯目のコーヒーで変わる」

 そう、皺をいっそう深めて笑ったマスターが、神様のようにもみえて、不思議だった。

 

 それから、店を出て、戻った家には同僚がいた。彼女は帰らせて僕を待っていたらしい。彼は『殴られる覚悟は出来ている』と、男らしく言いはなったが。そんな覚悟はいらないから、せめてそういう行為は、よそでやってくれよ。とだけ言って、家から追い出した。

 僕は久しぶりに大学の友達に連絡した。この後飲みに行こうと言われて、そこで、これまでの事を洗いざらい話した。

 彼は同情してくれた。そして、その後、これは同情じゃなくて僕の能力をかっているから、自分の会社へこいと言ってくれた。小さい会社で、まだまだ、大変だし、あちこちに頭を下げて仕事を、もらって回ってる状態だからしんどいけど、やりがいはあるぞと大きな手で、背中をバシバシたたかれた。あいかわらず馬鹿力だ。

 次の日僕は、辞職願いを出した。受け入れられ、3ヶ月後、僕は新しい会社で働く事になり、それから、本当に目まぐるしい人生だった。会社が軌道に乗ると、同じ会社の子と結婚し、僕は若くして取締役にまでなった。子供も3人出来て、奥さんは仕事しつつも、家庭も大事にするいい奥さんで、僕もできる限り育休とって手伝い、幸せな家庭をきずくこができてた。

 あれから、前の会社は大きい会社に吸収合併され会社員は前よりかなり給料が下がって不満の声があがり、前の上司は上から下からと、叩かれ今精神病院に通院しているらしい。

 悪女は、今まで僕に、仕事押し付けてきたのがバレ、しかも、なぜか僕を無理やり犯したという噂まで流れ、婚約していた金持ちの男と別れ、仕事を、辞めたらしい。

 同僚と元彼女は、結婚したが。両方不倫していて、1人子供がいたが、別れて彼女が1人育てているらしい。


「ここが、貴方がいっていた英雄カフェ?」

 年を取っても、目が澄んで美しい僕の愛しい妻がキラキラした目でそう聞いてきた。

「そうだよ。僕も、年をらとったけど、マスター元気かな」

 そう言って僕は、笑顔でコーヒーの薫りのする扉を開いた。


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