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猫になりたい  作者: 大黒 天(Takashi Oguro)
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本編

猫になりたい

(お題「猫、秋、カレーライス」)

大黒 天(Takashi Oguro)


「っとと……熱っ!」

 電子レンジで温めたばかりのレトルトカレーを手に取り、手早くよそったご飯にかける。昼飯は早く済ませ、夕方からのバイトまでゆっくりしたいところだ。

 季節は秋に差し掛かり、うだるような暑さも少し和らいできた。大学も後期の授業が始まり、少しずつ忙しくなってくる頃だ。



 カレーライスを手に取り、俺は居間のテーブルにそっと置いた。向かい側では、先に昼飯を食べ終わった父が、無言でテレビのニュースを見ている。

 父とは昔ほど話さなくなったが、年老いたせいか性格も丸くなり、説教されることもほとんどなくなった。昔は勉強しないでゲームばかりやっていると、よく怒られたものだが。


「にゃーん……にゃーん!」

 一さじずつカレーを味わいながら食べていると、足元から声が聞こえた。我が家の飼い猫、カイルの声だ。

「どうした、カイル?」

 カイルは俺の足に頭を擦り付けながら、何度も声をあげる。多分、餌が欲しいんだろう。


 カイルは1か月前の暑い日に、我が家の庭をうろついていた子猫だ。茶トラのオス猫で、かなり甘えん坊な性格をしている。

 母猫やきょうだいとはぐれたのか、周辺に他の猫は見当たらなかった。俺は子猫を拾い、すぐさま近くの動物病院へ連れていった。特に健康状態に問題はなく、予防接種も打ってもらったので晴れて我が家の飼い猫になることが決まった。

 もともと母が昔から猫好きなので、我が家で猫を飼うことになんら支障はなかった。父も何も言うことはなく、カイルは家族の一員として悠々自適に過ごしている。


 俺は食べかけのカレーの上にスプーンを置き、キッチンに足を運んだ。カイルはすぐさま俺の後をよちよち歩きでついてくる。

 キッチンの棚から俺は猫缶を取り出すと、流し台の横にあるカイルの餌入れに手早く中身を空けた。すぐさまカイルはそれにかぶりつき、勢いよく食べていく。俺はその姿をしばらく見てから、また居間へと戻った。



 残ったカレーを平らげると、俺はテーブルでくつろいだまま少し考え事をしていた。

 まだ大学も1年生だし、特に忙しないことはない。サークル活動やバイトもほどほどに、ごく普通の生活をしていると思う。でも、このままでいいものか。

 普通に卒業して、普通に就職して……社会に丸め込まれている気もしないでもないけれど、それも自分の宿命である気もしないでもなく。でも、なんだか複雑な気分だ。

 俺には特に壮大な夢はないけれど、できれば自分らしく生きたいという気持ちはあるにはある。よく分からないけど、自尊心のようなものかな。



 なんてしばらく考えていると、カイルが餌を食べ終えて俺のところへ戻ってきた。大きく背筋を伸ばすと、カイルは近くにあるクッションの上に乗り、すぐさま寝ころんで丸くなった。

「お前は気楽だなー」

 猫みたいに自由に暮らせたら、悩みなく過ごせるのかなとふと思ってみたり。猫には猫の悩みもあるのかもしれないけど、それは人間には到底分からないな。


 俺はポケットからスマホを取り出し、カメラをカイルの方に向けた。カイルは丸まったまま、すやすやと眠りについている。


 カシャッ!


 俺はシャッターを切り、悠々と眠りにつくカイルの姿を写真に収めた。

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