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突然竜の王の妃になりましたが、溺愛がひどいです  作者: ルーシャオ


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第25話 妥協案により

 私が万修と目を合わせられず、月神が廊下で丹青の肩を揺すって何とかしようとしているところに、白髭のおじいさんと言うべき年齢の、万修たちと同じ黒を基調とした着物の男性がやってきた。当然ながら状況がよく分からなかったらしく、万修へ食ってかかる。


「筑摩大輔(たいふ)! 何の騒ぎだ!」


 万修は白髭のおじいさんへ振り向くこともなく、私を向いたままこともなげに答える。


「信濃卿。何でもありませんよ、ちょっとした痴話喧嘩です」


 信濃卿と呼ばれたおじいさんは、万修の威圧感に押され、口をつぐむ。


 それどころではない、と無言で語る万修へ、私は目を向けられない。向けてしまえば、きっと恐ろしい顔で、怖い目で睨まれるだろうと思っていた。私を責め、逃げ場をなくして、ここへ閉じ込めるための言葉を吐くのだ、と。


 しかし、そうではなかった。万修は、声のトーンを落とし、静かに、諭すようにこう言った。


「りつか、ここから逃げ出してもいい。だが、それならけじめはつけなさい。すべて精算して、後を濁さず出ていくことが、お前の果たすべき責任だ」


 その言葉に、反論なんてできやしない。


 万修は、私がすべきことを、言語化してくれた。そうしなければ後腐れがあるのだろうと分かっていても、私はその道筋をしっかり掴むことができず、逃げ出すしかなかったのだ。


 けじめをつけて精算していくなら、ここから逃げてもいいと言ってくれるのは、おそらく宮城(みやしろ)では万修だけだろう。丹青の手前、月神もそうは言えないはずだ。


 私は——その言葉を、信じることにした。どちらに転ぶにしても、そうすべきだと思ったからだ。


 でも、それはそれとして、もう宮城(みやしろ)にはいたくない。


「とりあえず、ここに閉じ込められるの嫌だから、今日はどっか外に泊まります。お金ないから公園とかで」

「だめだだめだ、やめなさい」


 万修と、やってきた月神に説得されて、私は妥協案を受け入れることにした。


 妥協案とは——結論が出るまで、宮城(みやしろ)の外、千千都(ちぢのみやこ)でもっとも安全であろう場所で過ごすことだ。


 私ははて、どんな場所だろうと思ったが、外に出られるのであれば何でもいいと思った。まさか洗脳して逃げ出せなくするとか、怖い人に囲まれたりするとか、そういうことはないだろう。まあ、なぜか一緒についてきている丹青がいるかぎり大丈夫だ。私が無体なことをされれば丹青は黙ってはいない、そう思いたい。


 私は丹青ごと誰かと連絡を取りつづけている月神に連れられて、地下駐車場で後部座席の窓にシールドを貼った黒塗りのセダンに乗り込み、やってきた場所は宮城(みやしろ)から三十分ほど離れた住宅地だった。とはいえ、宮城(みやしろ)はまだまだ大きく見えるし、それほど離れていない気もする。私の隣でしょんぼりして無言を貫く丹青が竜になればひとっ飛びだろうな、と思えるのは千千都(ちぢのみやこ)ならどこでも同じだろうか。


 高層マンションの地下駐車場に入り、そそくさとエレベーターに乗って——エレベーターの階数表示が三十五階まであった——やってきたのは、何の変哲もないマンションの一部屋だった。表札には部屋番号以外何も書いていない、私たちがやってくると見計らったように玄関のドアが開いた。


 現れたのは、四十代くらいの男性だ。いわゆる、男性向けファッション雑誌のモデルのような、ダンディな感じだ。ウェーブのある黒髪を後ろに流し、髭を短く整え、カジュアルながらも礼を失することのないスーツ姿だ。ところが、男性はさっさと家の中に戻ってしまった。


 月神に先導されて、私と丹青は中へ入る。廊下、広い。私が両手を広げてもまだ幅に余裕があるくらいだ。リビングなど、実はモデルルームではないのか、と思えるくらい奥行きがあってラグジュアリーな調度品で整えられている一方で、窓がない。どういうことだろう、と思っているうちに、エウロペイアの機能美を売りにした現代風デザインのソファに座らされた。しょぼくれた丹青も所在なさげに隣に座っている。


 月神がここまでのあらましを、家主である男性へ簡単に説明していた。しかしこの男性、ものすごく泰然として、偉そうである。しかも、月神は普段より腰が低い。ひょっとして目の前にいるここの家主の男性は、偉い人なのだろうか。


 私が逃げ出した、丹青が追いかけて泣いた、説得もあって宮城(みやしろ)以外の場所に泊まることにした、月神によるそこまでの説明に、五分とかかっていない。


 家主の男性は、やれやれと言わんばかりに、ソファに背をもたせかけた。


「で、うちに来たわけか」


 家主の男性が呆れている様子は、見れば分かる。呆れたくなる気持ちは分かるが、私にとっては今後の人生がかかっているのだから、真剣に向き合ってほしいと図々しくも思う。


 月神が申し訳なさそうに、頼み込む。


「その……榛名家のご事情はよく承知しておりますが、千千都(ちぢのみやこ)宮城(みやしろ)よりも安全な場所というのは、ここしかございません。どうか、お二方をここに秘密裏に滞在させてはいただけないでしょうか」


 榛名家、と聞いて、私はやっと家主の男性の正体に気付いた。


 上位貴族四家の一つ、榛名家。この男性はその当主か、またはこのマンションの部屋は榛名家の所有で、管理人なのだろう。確かに、身分からして偉そうにするだけの理由はあるし、月神の腰が低くなるだけの意味はある。丹青を内密に宮城(みやしろ)から出して、保護できる場所となれば、上位貴族の家くらいしかないだろう。


 しかしその榛名家の男性は、本当に面倒くさそうに答える。


「うちは家出娘と放蕩息子の避難場所じゃないんだが、まあいい。一日二日くらい、面倒を見よう」


 仮にも竜王を、面倒を見る、程度の扱いができるあたり上位貴族だな、と私は感心半分呆れ半分だ。当の丹青はうつむいてため息を吐いている。もうこいつはだめだ。


 月神は男性に私と丹青を託し、急いで帰っていった。おそらく、宮城(みやしろ)の騒ぎを鎮めたり、しらつゆあたりに連絡を取って私と丹青が宮城(みやしろ)から出ていったことを隠そうと奔走するのだろう。それに関してだけは、申し訳ない気持ちだ。何も、私は月神やしらつゆに恨みがあるわけではない。悪いのは丹青だ。


 むくれる私へ、男性は自己紹介をしてくれた。


「お前とは初対面だな。私は榛名始雷、榛名家の現当主だ」

「申し遅れました、りつかです。お世話になります」

「ああ」


 榛名始雷、苗字以外は聞いたこともない名前だ。どんな人だろうか。私を引き止める工作をするようであれば、私はここからも逃げ出す算段をしなくてはならない。


 しかし、その前に——明らかに暗い雰囲気を醸し出している丹青を、何とかすべきだ。


 私は丹青のこれでもかと暗い顔に苛立ち、刺々しく当たってしまう。


「何でさ、あんたまでついてくんの?」


 丹青は顔を上げようとして止め、戸惑っているようだった。それはそうだろう、何を言ったところで私からすれば言い訳だ。おまけに、情けない姿を散々見せている。竜王の威厳も竜としての体面も何もあったものではなかった。


 そこへ、始雷が私の頭をぽかりと拳骨で叩く。


「他人の家で喧嘩をするな」

「あいた」


 決して痛くはないが、咎められたことは分かった。


 始雷はリビングから併設されているキッチンへと向かいながら、私へこう命令してきた。


「手伝え。食事の支度くらいできるだろう」

「はーい」


 私はソファから立ち上がり、始雷を追いかける。始雷の人となりを見るためにも、大人しく従っておこう。


 しかしすぐに始雷は振り向き、私は背中にぶつかる。始雷は顔を上げかけていた丹青へ、釘を刺した。


「丹青様はそこで待っていてください。何もできないでしょう」

「……はい」


 始雷は竜にも厳しいし、偉そうだった。

危機契約やったりサンタ復刻イベントやったり第7章配信やったりと忙しいですが私は元気ですゴリラ。

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