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突然竜の王の妃になりましたが、溺愛がひどいです  作者: ルーシャオ


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第20話 竜との出会い 後編

 私は、驚いた。


 丹青は何でもこなせそうに見えていたからだ。竜王に選ばれるほどだからすごいに違いない、婚礼であんなに堂々と喋っていたのだから偉いに違いない、そんなふうにしか見えていなかった。


 その丹青が、無力でひ弱だったころなど、想像ができない。本当にそんなころがあったのか、と疑いたくなる。


 しかも——その時期に、仁淀にいた十年ほど前の私と会っていた?


 なおさら分からない。なぜ、私は思い出せないのだろう。


 仁淀には多くのミズチがいる。私の顔見知り、ひよりを始めとした友達も多い。子どもながら人間そのものに化けられるミズチもいれば、尻尾だけでなくヒレを残してしまう未熟なミズチもいた。だから、そこに変化の下手な竜が交じっていても、分からなかったかもしれない。印象的な尖った耳や白金の角を、そのときは隠していたか、あるいは現わせられなかったかもしれないからだ。


 私は正直に告げる。


「ごめん、ミズチけっこういっぱいいたし、夏の間だけ帰省してくる子も多かったから、いまいち誰が誰だか」


 しかし、丹青は失望や怒りという感情を一切見せていない。それでもいいのだ、と言わんばかりに上機嫌だ。


「私は仁淀でも独りで過ごすことが多かった。変化を練習して、人間の暮らしも見てきた。だが、ある夏の日、あまりにも暑かったせいで、道端で倒れたんだ」


 なるほど、それは何となく想像できる。確かに仁淀は暑い、夏は四十度を超えることすらある。地元民はしのぎ方を知っているが、よそから来た人間もミズチも、気を抜けば熱中症で倒れる。どうやら、竜も熱中症には勝てないらしい。


「そして気が付いたら、人間とミズチの子供の手で川に放り込まれていた」

「えっ」

「いや、分かっているよ。投げ込んだわけではなくて、体が火照っていた私を冷たい水辺に連れて行こうとして、足が滑って私を川へ放ってしまったんだと。おかげで気付けになって、私は意識を取り戻したんだからね」


 私はお口にチャックをして、無言を貫く。やってしまったのか、そのときの私。救助のためとはいえ、けっこうなお転婆ぶりである。


 丹青は愉快そうだからその時のことを恨みには思っていないだろうが、一歩間違えれば大事故である。そのことは言わないほうがいいだろう、思い出を汚すまい。


「そこで私に付きっきりで様子を見て、心配してくれた人間の女の子がいた。幼いころの君だ」


 私は丹青を見た。本気だろうか、と様子を窺うが、丹青はまっすぐに私を見返していた。


 君で間違いないのだ、と言っているかのようで、その確信はどこから来るのかを私は確かめなくてはならないと思った。


「それ、そこまで確信あることなの? 違う子ってことない?」


 そこで丹青はとんでもないことを口走る。


「匂いで分かるよ。君からはあの子の匂いがするし、調査で持ち帰った君の帽子の匂いも」

「は? 持ち帰った? 帽子?」


 丹青はにこにこしているが、私は嫌な予感がしたし、帽子というキーワードであることを思い出した。


「あ! ひょっとして、小六のときの体操着の帽子! 運動会前になくして怒られたやつ!」


 そう、後にも先にも、私が帽子をなくした、という出来事はそこしかない。麦わら帽子くらいなら持っているが、暑い仁淀では他の帽子を被る機会は少ない。せいぜいが体育の授業の際に着用する体操着の赤白帽だ。


 小学六年生のとき、十月の運動会を前にしたある日。家に帰った私は、母に体操着を洗濯に出すよう命じられた。面倒くさいと思いつつ、体操着を入れた巾着を逆さにして中身を放り出したのだが、なぜか赤白帽がない。何度探しても、それだけないのだ。


 母に赤白帽をなくした、なぜなくなったのか分からない、と訴えても、そそっかしいからなくしたのよ、と怒られた。しょうがなく、私は街の制服屋に行ってお小遣いを使って赤白帽を買い直した。そのせいで当時ハマっていたアニメのキャラクターシールを買えなくなって、悔しい思いをしたのである。


 お前のせいか、と責める言葉が出る前に、待てよ、と私の中で一考を促す声が聞こえた。


 なぜならば、なくした赤白帽は使用済み、洗濯前のものだ。調査の名目で盗まれた、なぜか。


 答えは丹青が匂うためである。十年ほど前に出会った私を探し、確証を得るためとはいえ、普通に考えて女の子の匂いを嗅ごうという発想は、ぶっちゃけキモい。


「変態……」

「いや、匂いを確かめたくて、官吏に頼んで」

「自分で来ればよかったじゃん! 会えば分かるでしょ!」

「それは、その、すでに竜王になることが決まっていて、下手に人間のいるところに行けなかった時期で」


 それだけならば私はもう責めなかった。


 だが、それだけではないのだ。


「とにかく、その、君の」


 丹青は照れながら、こんなことを口にした。


「君の匂いが好きだ。嗅がせてもらっても?」


 私は即答した。


「嫌です」


 別に私は丹青に恋をしていたわけではないが、そんなことを言われると百年の恋も一気に冷めるだろう。


 私と丹青の仲は、最悪に近いところまで暴落したのである。

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