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突然竜の王の妃になりましたが、溺愛がひどいです  作者: ルーシャオ


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第14話 竜王の結婚式 前編

 竜王の結婚式、と言っても、実は妃の私の出番はそれほどない。


 しらつゆに結婚式の段取りを聞くかぎり、拍子抜けするほど私の役目はないそうだ。


 宮城(みやしろ)の外では数百万人規模のお祭り騒ぎだそうだが、私の肌にまでそれが伝わってくることはない。だって、はるか高度三百メートル付近にある空中舞台、御空の間に一時間ほど顔を出すだけなのだから、地上がどれほど賑やかであろうと感じようがないのだ。しかも、それは竜たちへの短い披露宴の席で、ドローンでのテレビ中継もほんの少しだけ、というのだから、想像していた盛大な結婚式とはずいぶんと違う。


 何でも、妃の顔やプロフィールはほとんど公にはしないそうだ。だから衆目のある場にはちらっと顔を出す程度で、あとはすべて丹青と宮城(みやしろ)の人々、千千都(ちぢのみやこ)に集まった数百万人くらいのためのお話だ。国を挙げての一週間近くのお祭りも、私は当事者なのに蚊帳の外、というわけだった。


 それはそれで悲しい。しかし、別に目立ちたいわけではないので、それでもいい気がする。何にせよ、私は当日は馬鹿騒ぎしてはならず、時間になったら白無垢を着て御空の間に顔を出して終わり、ただそれだけだ。


 というわけで、寝巻きのジャージ姿の私は朝から食堂のテーブルに頬杖を突いて、テレビを眺めていた。千千都(ちぢのみやこ)は上へ下への大騒ぎ、都の各地に何百とある竜に関係する竜神社では神輿に踊りにと騒がしく、多国籍の観光客でごった返して地元民や企業は楽しそうに大小様々な出店で商売に励み、今日ばかりは上空に何匹も竜が泳いでいる。宮城(みやしろ)へやってくる竜は、竜の玄関と呼ばれる宮城(みやしろ)中腹の連なる鳥居へ次々と着陸する。そういえば竜は全部で何匹いるのだろう、今日は全部千千都(ちぢのみやこ)へ来るのだろうか。


 テレビの向こうで、人々と竜は、竜王と人間の妃の結婚を言祝いでいた。私のことは何も知らないのに、人々と竜は浮かれて竜王を褒め、お幸せにだの仲睦まじくだの、無責任に口にする。何にも知らないっていうのはこういうことなんだな、と私は嫌な現実を実感してしまった。


「あー……結婚式出たくない」


 私は言ったあとで気付く。心の声が思いっきり漏れてしまっていた。隣の部屋に着物やアクセサリーを次々運び込んでいるしらつゆに聞こえていたらどうしよう、とどきどきしたが、何も言ってこないので聞こえてはいないようだった。


 テレビの音だけが、虚しく食堂に響く。


「後ろをご覧ください。蓮猫国(リィエンマオグォ)から訪朝した使節団が宮城(みやしろ)へ入っていくところです。先ほどチャーンキープラテートからの使節団も到着し、順次即位の儀を終えられたばかりの竜王陛下と会談する予定とのことです。また空港ではエウロペイアの大統領以下二百人ほどの政財界の要人が来朝し、厳重な警備が」


 色々言われたって私には分からない。落ち込んでいるのに、難しい単語や話を持ってこないでほしい。私はテレビを切り、しらつゆにかまってもらおうと隣の衣裳部屋へ行く。


 普通、こういうときは着付けの先生や手伝ってくれる女性陣を入れるものだと思うが、今ここにはしらつゆと荷物を運んできた官吏の男性三人しかいない。理由など私は知らない、聞く暇もないほど忙しそうだったからだ。ただ、もうあらかた荷物は運び終えたようで、男性三人は帰っていく途中だった。


 私は着物のチェックをしていたしらつゆに声をかける。


「ねえねえコンちゃん」

「ちょうどよかった、そこに立っていてください」

「はいよー」

「そのまま動かないでください。それで、何ですか?」


 流されるままに私は襦袢っぽいものを着せられた。このまま着付けが始まるようだ。


「あんまし結婚式、面白くなさそうなんだけど」

「あなたはそう思うでしょうが、我慢しなさい」

「だってさ、私、ちょろっと出るだけじゃん? 身代わりが出てもバレないよこれ」

「バレないでしょうね。しかし、丹青様のご希望です。あなたと結婚式を挙げたいと」

「はー……面倒くさ」

「昨日やらかした罰だと思って、そのくらいの希望は叶えてあげなさい」

「あーね、そーね」


 昨日のやらかし、私は半ば忘れかけていた。しかしちょっと踏み込んだ話題を一言言っただけで倒れて周囲に担がれていくというのは、丹青はオーバーリアクションにも程があると思われる。


 白露の手には、白無垢と言いつつも謎のふんわりした打掛や絹の腰巻きがあった。どうするのだろう、と思っていると、しらつゆはちゃんと説明してくれた。


「どうせあなたは着物に慣れていないでしょうから、できるだけ簡略化した特注の着物にしておきました。これで誤魔化せます」

「わー助かるーコンちゃんナイスーデキる女ー!」

「竜たちも人間の衣裳に興味など持ちませんから、多少おかしくても問題ありません」

「それはそれでアレだよね、何で来たのって感じ」

「丹青様の即位とご結婚を祝うためですよ。あなたではないだけです」

「感じわるーないわー」


 私を戒めるようにしらつゆは襦袢の帯をぎゅっと締めた。ぐえっと首を絞められた鳥のような声が喉から出る。


 しかし、なぜか私はジャージのまま着付けをされていた。慌ててしらつゆを止めようとする。


「待ってコンちゃん、下はジャージでいいの? これ高校のジャージなんだけど」

「何でもかまいませんよ。はい、後ろを向いて」

「いやせめて脱ぐから」

「御空の間は竜のための環境ですから、風もありますし寒くなりますよ。いいから、ジャージは脱がない!」

「いーやー!」


 抵抗虚しく、私はジャージのまま改造白無垢をざっくりと着付けられることになった。しらつゆの着付けの腕、上等な生地と仕立てのおかげで、下手な洋服よりずっと着心地はいいことがまた何とも言えない。


 用意された赤い草履はブーツのようになっていて着物の裾の中に隠して歩きやすくされているし、角隠しはメッシュ素材が巧妙に使われていて——中に超小型の無線機を仕込まれた。


「いいですか? 骨伝導イヤホンで式の進行を伝えますから、指示に従ってください。マイクも付いていますから、何かあれば言うように」


 そう言って、しらつゆは私の左耳にイヤーフックを引っ掛け、目立たない小さなイヤホンを突っ込んだ。だんだんとしらつゆは私の扱いが雑になっていっている気がする。


 しかしそれも私が恥をかかないためだ。用意周到なしらつゆには感謝し、私は迎えに来た絵巻物に出てくるような青を基調とした朝服の男性官吏たちに連れられて、やっとの晴れ舞台へと向かう輿に載せられた。お神輿の上に乗るとこんな感じなのだろう、ちょっと座席が高くて怖いが、遠慮なく輿は進んでいく。

次は11/11の05:00です。疲れゴリラ。

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