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第1話 竜の王の花嫁

和風異世界ファンタジーな溺愛ものです。

しばらくは一日一回更新です。見てねゴリラ。

 この国は、太古の昔から竜が人を治めている。


 金色の梅の枝のような角、人の顔よりも大きな鱗、獅子のごとき立派な鬣、不思議な力で悠然と空を泳ぐ姿はさながら動く飛行機雲のようだ。どこまでも伸びる体はときに山に巻きついて休み、奉る人間が何百年とかけて築いた巨大建築物である大社の中でのんびりと暮らしている。


 そんな竜たちは、数百年に一度、人を治める王を選ぶ。竜の中の王ではなく、人の王となる竜を選ぶのだ。王となった竜には人の妃があてがわれ、竜と人との繋がりを象徴すると同時に、妃には竜の王が人の世を知る手助けをする役目が与えられる。


 竜たちは人を慈しみ、守る。人々は竜を崇め、暮らしやすくする。連綿と紡がれてきた竜と人の歴史は、この十十廻国(とおとみのくに)と他国との関係を最低限に抑えさせるほどに、強固な絆を記してきていた。


 竜と機械の国、十十廻国(とおとみのくに)は、二十六代目の竜の王を擁立するとともに、新たな時代を迎える。






 絢爛怒涛の大都市の夜空に、五色の竜が舞っている。


 高層ビルのあちこちから花火と竜が顔を出す。地上には大通りの沿道のぼんぼりに、人の波が照らし出される。皆がその巨帯都市(メガロポリス)の首都千千都(ちぢのみやこ)の中心にある超巨大建造物宮城(みやしろ)へ向けて、羽目を外して練り歩く。遠くからでも宮城(みやしろ)は山のように連なっている、人よりもはるかに巨体の竜を住まわせるものだから、世界でも類を見ないほどの頑強で大きな木造建築物を造らなければならなかったのだ。コンクリートと鋼でできた人間用の都市と、木でできた竜用の宮城(みやしろ)。この二つは、絶妙に混ざり合っていた。


 今日はお祝い、竜と人の結婚を喜び、明るい先行きを願う。


 まあ、花嫁の私は内心穏やかではなく、隣に座る新郎——光翼衣をまとい、人に化けた竜の王、角と尖った耳のほかは人間そのもの、ああいや、当然だが人間離れした美貌に青と赤の髪を三つ編みにした彼をちらっと見る。


 彼は目ざとく私の視線に気付き、笑いかけてきた。


 他の人々と同じく、彼にとっては今日はお祝いだろう。だが、私にとっては身売りも同然で、致し方なく初めて来た宮城(みやしろ)のお披露目用の空中檜舞台、御空(みそら)の間の上座に座っている。巨大な六曲一双の金屏風に、分厚い畳に分厚い座布団、背中には白無垢でももたれられるクッションがどんと置かれていた。


 どうしてこうなったのだろう。


 私は夫となる竜の王に笑いかけられても、笑い返すような気分にはなれず、半ば無意識のうちにため息を吐いていた。


 仁淀りつか、高校二年生の十六歳。図らずも、新しい竜の王の妃になってしまった私は、暗澹たる気持ちを拭えずにいた。






 夏の初め、濃い日陰の中に、線香の香りが漂う。


 古びた八畳間の仏壇には、真新しい位牌と遺影が二つずつある。私、仁淀りつかの両親のものだ。


 先日、大きな台風があった。両親は、仁淀家が代々管理している河川の管理と周辺住民の避難を行っている最中に、土砂崩れに巻き込まれて命を落とした。夏休みが始まったばかり、これから弟も含めて家族四人で壮麗な宮城(みやしろ)のある千千都(ちぢのみやこ)へ旅行に行く予定だって立てていた。


 そりゃあ、私だってあの日は泣いた。川の下流で両親の遺体が見つかったのは幸運だったとさえ思う、それだけの大規模な土砂崩れで、いくつか山の形が変わるほどだった。それでも戻ってきてくれたのだから、葬式はきちんと行えた。


 でも、これからどうすればいいのか、と私は頭を抱える。


 高校二年生、十六歳になった私は、四歳下の弟清明(せいめい)とともに、仁淀家を継がなくてはならない。そうしなければ——家の存続も、先祖代々守ってきた竜の眷属ミズチたちが住む河川も、古びた屋敷だけど大切なこの家だって奪われてしまう。


 私は、前髪だけぱっつんのセミロングの髪を整え、夏のセーラー服を着て、会うのも嫌な客を待っていた。何となく落ち着かなくて、無駄に広い、誰もいない家中をうろうろしている。


 一応、仁淀家はこの十十廻国(とおとみのくに)の田舎の下級貴族だ。私の名前だって正式には人宮臣四位家仁淀じんぐうしんしいけによどのりつか、という長ったらしい名前がある。末席の四位ではあるけど、この国でずっと伝統を繋いできた貴族の家の一つ、だからこそ、当主がいなくなって子供だけが残されれば、抜け目のない親族たちに食い物にされてしまう。それだけならまだいい、屋敷も財産も家柄も取られて、私と弟が放逐されることだってありうる。


 今日はその親族が、今後について話し合いという名目でやってくる日だった。初七日が明けて、すぐだ。自分が本家を取り仕切ろうというその魂胆は見え見えで、私は何としてでも、この家を守らなくてはならない。


 だけど、あまりにも心細い。十六歳、高校さえ卒業していない小娘が、突然貴族の家を継いでやっていけるほど、世の中は甘くない。


「はあ……嫌だなぁ。何で死んじゃったのよ、お父さんもお母さんも」


 私は、こんなことに弟を巻き込みたくなくて、友達の家に行ってなさい、と朝から家を追い出していた。ちょっとだけ年上ぶってみたけど、小学生の弟でも傍にいれば少しは安心できたのかな、などと弱気になってしまう。


 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。


 来た。やつらだ。行きたくないけど、行かなくては。


 私は重い足取りで、玄関へ向かった。

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