第23話 弱者と強者
ソンナ遺跡。
俺は国王ブリザの依頼で調査団530人の行方を探しに来た。
そこは神殿の廃墟のような場所。
太く豪華な石の柱が点在する。昔は栄えていたのだろう。
いつの時代かは想像できないが、朽ち果てた感じから相当な年数が経っていると思われる。
彼女の話では声が聞こえるというが……。
『 我 を 受 け 入 れ よ 』
ふむ。
声とはこのことか。
低い男の声だな。腹に響いて恐ろしい。子供なら寝れなくなってしまうだろう。
『 我 を 受 け 入 れ よ 』
「受け入れるかどうかは話次第だ。まずは顔を見せろ」
『 我 を 受 け 入 れ よ 』
やれやれ。
同じことの繰り返しか。
俺は朽ち果てた建物へと入った。
強い 魔源力は感じられないな。
モンスターの類じゃないのかな?
俺は階段を下る。
随分と地下に降りさせるな……。
相変わらず声は聞こえているが同じ言葉の繰り返しである。
何を受け入れて欲しいのかさっぱりだ。
最下層。
驚くほど広い空間に到達した。
王都にあるリザーク城と同等くらいの広さだろうか。
2メートル前後の白い石がそこいら中に点在する。
部屋の真ん中は祭壇になっているようだ。
『 我 を 受 け 入 れ よ 』
声は祭壇から聞こえるのか。
「おい。来てやったぞ。理由を聞こう」
『我はリザークの守護者』
リザークとはここら一帯の大地の名称だ。
それを守護する者だと?
『……なんだ。その 魔源力は?』
「どう言う意味だよ?」
『今にも消えそうな力だ』
「俺の 魔源力は……」
『そんな力では足りない!』
いきなりそう言われてもなぁ。
俺は攻撃する瞬間だけ 魔源力を上げるタイプなんだ。
と、俺が説明しようとした瞬間。
『ホワイトストーン』
祭壇より発光。
「何!?」
俺の手足は白い石へと変化していった。
石化の呪いか。
「おいおい。いきなりこれじゃあ話し合いにもなりゃしないって」
『弱者は無となれ』
弱者か。まぁ、俺はまだまだ未熟者だからな。かといって強者とも思っていないけどさ。
いきなり石にされたら困るんだよな。
「 聖なる従者」
俺の全身は発光した。
石化の進行が止まる。
解呪の魔法だ。
以前、ミィの呪いをこれで解いたことがある。
『貧弱な! そんな魔法で我の呪いが解けるものか!』
再び石化が始まった。
「やれやれ。ノーマルの 聖なる従者じゃダメなのか」
『無となれ!』
そうはいかない。
「 聖なる従者」
『無駄だ!』
無駄かどうかはやってみなくちゃわからんっての。
「 魔神技 象火」
ノーマルの 聖なる従者を5倍増しの強化。
俺の体は更なる強い光で包まれる。
『ぬぉおおおお……。こ、この光はぁああ……!?』
光が収まると、俺の体は元に戻っていた。
「な。やってみなくちゃわからないだろ?」
『何ィイイ!? 我の呪いを解くだとぉお!? お前は一体何者だ!?』
「俺の名はデイン。勇者学園の教師だ。国王に頼まれてな、行方不明になったリザークの兵士たちを探しに来たんだよ」
『……兵士たちならお前の周りにいるさ』
「え?」
と周囲を見やる。
白い石だと思っていたのは石化した兵士たちだった。
なるほど。
「お前が兵士を石にしたのか。でもなぜだ? 人を誘って石化させるのがお前の目的か?」
『リザークの大地に、大きな災いが起こる時。我は目覚める』
「はい? お前が災いを振り撒いてる張本人だろ?」
『我はリザークの守護者』
祭壇から白いオーラを放つ巨大な竜が現れた。
これがこいつの正体か。
しかし、
「リザークの守護者が兵士を石に変えるのか? 目的はなんだ?」
『弱者の救済だ』
弱い者を助けるのが目的?
「なら、どうして石に変えるんだよ? 兵士は国民を守る存在だぞ」
『弱い者は災いに駆逐されるからだ。石に変えて災いから身を守る』
「つまり……。お前とは違う、敵の存在がいるということか?」
『そうだ。この大地に大きな災いが起こる』
ふむ。
悪い存在ではなさそうだな。
「じゃあお前に協力するからさ。その災いを一緒に倒そうよ。兵士たちを元に戻してくれ」
『ならば我を倒せ。我が消滅すれば、兵士は元に戻るであろう』
「リザークの守護者を倒す? それもなんだかな」
『甘いことを。強者は常に選択が正しい。弱者は選択を見誤る。我を倒せばことは済むのだ』
ふむ。
「それ以外の選択肢もあるんじゃない?」
『何ぃ?』
「 聖なる従者 魔神技 象火」
これで兵士を元に戻す。
しかし、白い石と化したその姿は元へは戻らなかった。
「なるほど。完全に石化した者は解呪できないのか」
『ふはは、無駄だ! お前の技では解呪は不可能。我を消滅させること、それが石化を解く唯一の方法なのだ!』
「……象火はな。俺の一族、 魔神魔技族に伝わる魔神の技。元の力を5倍にする能力なんだ。しかし、それを更に倍化させる奥義がある」
『なんだと!?』
俺の周囲は黒いオーラに包まれた。
『ぬ!? 凄まじい 魔源力だ!?』
「俺はその奥義を使うことができるんだ」
『な、何をするというのだ!?』
「見せてやるよ」
黒い 魔源力は俺の眼前で小さな塊へと集約する。
「 魔神技 蝶の効果」
その塊は漆黒のアゲハ蝶へと変貌した。
ヒラヒラと空を舞い、やがて俺の拳へと吸い込まれる。
そして、俺の拳は光り始めた。
「兵士たちの石化を解く。 聖なる従者」
「ふはは! 同じことを! 無駄なことだ!」
どうかな?
「 魔神技 蝶! 象火」
蝶の効果によって象火の威力が更に増す。
ノーマルの力を《《超》》える技、それが 蝶の効果。
「蝶の力で5倍の効果。象火の5倍を更に増やす。つまり、5×5で25倍増しだ」
この技の欠点は時間がかかること、それと蝶の行方。
生まれた蝶が拳に吸収されないと発動しないんだ。
今回は何事もなく上手くいったからな。
「さぁ、俺の選択を確認しようか」
聖なる従者は、蝶、象火によって強烈な光を発した。
部屋一面を真っ白に埋め尽くす。
光が収まると、一面には兵士たちの姿があった。
「うぉおおおお! 元に戻ったぞぉおおお!!」
「石化が治ったぁああああ!!」
「動けるぞぉおおおおお!!」
うむ。
上手くいったな。
『何ィイイイイ!? 我の呪いを解いただとぉおおおおお!?』
「こういう選択肢もあるってことさ」
『そ、そんな馬鹿な……』
兵士たちは俺の手を取った。
「石化されながらもデイン様の行動は見ておりました! 解呪の魔法、お見事でございます!!」
「みんな元気そうでなによりだ。国王が心配してるからさ。早く帰って安心させてやろうよ」
「はい! し、しかし、あの魔物は?」
みんなは祭壇に浮かぶ巨大な竜を見上げた。
「兵士たちは元に戻ったんだ。お前の言う厄災を一緒にぶっつぶそうよ」
『我を消滅させることが古くからの仕来りなのだ。強者とはそのようにして生まれる』
「なんだその理論? お前を殺して強者認定って酷くないか?」
『そ、それがルールだ』
「ふーーん。そうなんだな。俺は不真面目な教師だからさ。ルールは守らない方なんだ」
『そんな理由が通じるか!』
竜の周囲には無数の白い石が浮かんだ。
それは集約して巨大な石の塊になった。槍のように鋭く尖っており、その切っ先を俺に向ける。
ふむ。
どうやら、白い石を操るのがこいつの能力みたいだな。
『我を消滅させてみよ。さすれば強大な力がそなたに備わるであろう』
ほぉ、強大な力とは興味があるな。
しかし、意思のある者を消滅させるってのもな、なんだか気分が乗らないや。
巨大な石は俺に向かって飛んで来た。
兵士たちが口々に悲鳴を上げる。
「ひゃあああああああ!!」
「デイン様、逃げましょう!!」
「終わったぁああああ!!」
やれやれ。
やるしかないのか。
「 魔神技 兎走」
俺の移動で大地が爆ぜる。
からの、
「牙狼!」
巨大な石は花火のように粉砕される。
それは白い粉塵と化した。
「ぺっぺっ! 口に入った! なんだこれ?」
この臭い……。
「これチョークか?」
黒板に文字を書くチョーク。
さっきから白い石の現象が続いている。
空中に白い石を出現させたり、兵士を白い石に変えたり。
つまり、これって、
「お前の能力はチョークを操る力だったのか!」
『それに気がついたからどうだというのだ! 喰らえ、チョークキャノン!』
チョークが巨大な塊となって、再び俺に向かってくる。
数を増やしたな。
ならこっちだって、牙狼を、
「 魔神技 象火!」
で、強化だ!
ドパパパパパパパ!
瞬く間にチョークは粉砕された。
白い粉塵が、まるで花火のように舞い上がる。
「あわわわわ……。す、すげぇ戦いだぁあああ……」
「こんな戦い見たことないぞ……」
「デ、デイン様すごすぎる……」
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