2.素晴らしきかな我が人生
妹である石橋祭は、清見台中学二年生。面倒見のいい性格と、アイドル顔負けな容姿からファンが多い。
「弁当持った?」
「いつもサンキューな」
「感謝してるなら、たまには買い物に付き合ってよ」
「了解。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
祭は俺を優しく見送ってくれた。自分も学校の準備をしなければならないのに。
本当に祭には頭が上がらない。
本日より東合高校一年生。俺は消極的な性格から、変わり者だとよく言われる。
「ビュー」
今日はまた随分と風が強いな。
「おーっす」
自転車を漕ぐ俺に後方から声がかかる。
声の主は、長谷川日向。中学生時代から、自宅から学校までフルマラソンをする体力馬鹿。
テコンドー部界のホープだった日向は、東合高校に推薦入学した才能ありし者だ。
中学生時代からの悪友であり、類は友を呼ぶとは、まさにこの事。テコンドー馬鹿のコイツは変人だと言われることから、友人は少ないのは当然だ。
「ういっす」
「相変わらず元気ないな」
「うるせぇ、体力馬鹿なお前とは違うんだよ」
「何だとー、ゲーム馬鹿め」
「やるってのか?」
「昼メシやるわ」
「交換か?」
「お前、ジャガイモ好きだったろ」
「おう」
「俺はジャガイモだけは駄目なんだよぉーー」
「知ってるよ」
「十円チョコ三個でどうだ」
「OK」
いつもの通学の風景がそこにはあった。
「じゃあ、先行ってるわ」
「おう」
日向と分かれて、学校の駐輪場に自転車を止めていると、隣には顔見知りのクラスメイトが、同じく自転車を駐輪していた。
「お、翼っちー、おっはー」
俺に気づいた女学生は、快活な挨拶をする。
「おはよう高城」
「相変わらずノリが悪いな。モテないぞっ☆」
「モテたいとか思ってないよ」
「相変わらずクールだね。このこの、うりうり」
高城は人差し指を捻りながら、俺の背中を突く。
彼女の名前は高城七緒。チア部の看板娘であり、若葉のような緑髪が特徴で、スポーツに適した胸の大きさなのだが、それは密かに抱える悩みでもあった。
しかし、この明るさと取っ付き易さから、男女問わず人気が高い。
「早く行かないと遅刻しちゃうぞ☆」
「わかってるよ」
2人は校舎に向かって歩き始めた。その時、強風が吹いた。高城が油断していたこともあり、スカートがバサッとめくれ上がった。
「…」
純白の下着にリボンが付いていた。
「見た?」
高城は顔を真っ赤にしながら、問い詰めるような鋭い目つきで翼を睨んだ。
「見てない」
翼は目線をそらしながら答える。
「ならいいけど」
まだ顔を赤く染めながらも、この高城の切り替えの早さは美点である。