表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/571

閑話 蒼真 1 家族の紹介

本日からしばらく蒼真視点です。

前話『閑話 竹』のつづきにあたる、本編五十七話あたり、トモが『異界』に行くことを決めた日(蒼真が『チョコレート爆発』を起こした日)の夜からお話がスタートします。

「それではみんなそろったところで」


 コホンと明子が咳払いをする。なんだか舞台役者みたい。


「改めてご紹介します!

 こちらがこのたび新しく息子になってくれました、蒼真ちゃんです!」


「ハイ拍手ー!」

 そういう明子が楽しそうに拍手をすると、明子そっくりの女とふたりのちびっこが「わー!」と声をあげながらニコニコと拍手をする。

 大人の男ふたりとヒロは引きつった笑顔を浮かべながら拍手をし、晴明は頭をかかえていた。

 竹様と黒陽さんは呆然としている。


「蒼真です!

 高間原(たかまがはら)の東、青藍(せいらん)の出身です!

 青藍(せいらん)の王の一の姫である梅様の護衛兼お世話係兼助手です!

 得意は薬作りと薬草栽培! 上級薬師の資格を持ってます!

 医術も多少たしなんでいます!

 よろしくおねがいします!」


 ピッと片手を挙げて元気よく挨拶すると、またも「わー!」と拍手があがる。

 受け入れてくれる態度にうれしくなる。


「そしてこちらが緋炎様です!」


「改めて。緋炎よ。

 高間原(たかまがはら)の南、赤香(あこう)で近衛第五隊『蘭舞(ランブ)』の副隊長をしていたわ。

 王の末の娘である蘭様のお目付役でもあるわ。

 今回は蒼真のお目付役としてしばらく滞在させてもらうわ。よろしくね」


 にっこり微笑む緋炎さんにちびっこが拍手をしながら「とりさん!」「きれい!」と喜んでいる。


 ぼくは明子の右の肩に、緋炎さんは左の肩にくっついている。

 そんなぼくらに明子が家族を紹介してくれる。


「まずは私の従姉(いとこ)のちぃちゃん」

「千明よ! よろしくね蒼真くん!」


 パッと手を伸ばしてくる千明に手を出すと、ぎゅっと握られてブンブン振られた。


「アキの息子なら私にとっても息子だわ! 私にも甘えてね!」

「わかった! よろしくね千明!」


 にっこり笑う千明は明子と同じ顔なのに全然雰囲気がちがう。

 でも千明も気持ちのいいひとだなぁ!

 千明までぼくのこと『息子』だって! うれしいなぁ!


「ちぃちゃんの子供で双子のサチちゃんとユキちゃん」


「めぐろさちです。にさいです!」

「めぐろゆきたかです。にさいです!」

「「よろしくおねがいします!」」


 ペコリと同時に頭を下げるちびっこはめちゃめちゃかわいい!

 上手な挨拶に全員で拍手喝采する。


「そうまちゃ、は、りゅうなの?」

 サチの質問に「そうだよ」と答える。


「カッコいいだろー」とわざと言ったら、目をキラキラさせて「「カッコいい!!」」と力説された。

 なんだこのちびっこ! かわいいやつらだなぁ!


「だっこさせて!」

「ゆきも!」


 明子のそばに飛んできてわちゃわちゃ手を伸ばしてくるのを明子が上手にあしらう。


「蒼真ちゃんはえらいひとなのよ?

 サチちゃんユキちゃんよりも、おとうさんおかあさんよりも、ずっとずっと長生きで、ずっとずっといろんなことを知ってる、とってもすごいひとなのよ? わかる?」


 明子にそんなふうに言われるとなんだか誇らしいなぁ!

 えっへんと胸を張ったら、ちびっこは「「すごーい!」」と目をキラキラさせて抱っこを忘れたらしい。


「サチちゃんユキちゃんの新しいおにいさんになるのよ」


 え。そうなの?


 思いもかけない明子の言葉にツッコミを入れる前に、ちびっこから「「すごーい!」」と声があがった。


「そうまおにいちゃん!」

「おにいちゃんふえた!」

「わあい!」「わあい!」と跳ねるちびっこに悪い気はしない。

 ヒロが遠い目をしているのはなんでだろう。

 晴明は抱えた頭をさらに深く抱えて沈み込んでいる。


「では紹介を続けるわね。

 ちぃちゃんの夫のタカさん。ちぃちゃんとタカさんの息子のヒロちゃん」


「目黒 隆弘です。『タカ』と呼んでください」

「目黒 弘明です。よろしくお願いします」


 このふたりはトモの治療に出入りしていたときからの顔見知り。

 でもふたりが親子とは気付かなかった。

 ていうか、ヒロも明子の息子だと思ってたよ。同じ顔だし。


「ちぃちゃんの息子ならオレにとっても息子ですね。

『蒼真くん』て呼んでいいですか?」


 なにその理屈!

 明子の息子になったら千明の息子になって、千明の息子になったらタカの息子になるの!?


「もちろんいいよ!」と答えたら「蒼真!」って黒陽さんに怒鳴られた。でも知らんぷりしておく。だってタカが言い出したんだもーん。


「蒼真くんは成人してるの?」

 早速くだけた口調になるタカになんだかうれしくなる。


「してるよ! 八歳で姫付きになったときに『成人の儀』をしたから成人!

『落ちた』ときは十五歳だったし!」

「十五!?」

高間原(たかまがはら)ではそれが一般的だったんですか?」

 タカの質問に緋炎さんが答える。


「一般的には十五歳で『成人の儀』をするのが多かったわね。

『成人の儀』をしたら、何歳でも成人として認められていたわ」


「そうなんだ」と納得する一同。

 そのなかでタカがニヤリと笑った。

「成人なら酒飲ませても大丈夫?」

「!」

 なにそのうれしいお誘い!


「大丈夫大丈夫! これでも薬師だよ!? 酒だって薬の一種だからね! いろんなの飲んでみたい!」

「蒼真!!」

「アラ。じゃあ蒼真を抑えるために私も同席しないといけないわね」

「緋炎! お前まで!!」


 黒陽さんがガミガミ言うけど、気にしなーい!

 黒陽さんがうるさいのはいつものことだもんね!


「じゃあいろんなの用意しないとな」

「タカさん。飲みすぎはダメよ?」

 ニヒヒッて笑うタカに明子が苦言を呈する。

 でもぼくは楽しみー! 甘いものも好きだけど、お酒も好きだもーん!


「それでは紹介を続けましょうね」と明子がぼくをスルリとなでる。


「こちらがご存知、主座様のハルちゃん。

 私の息子よ」


 紹介された晴明はどうにか顔を上げて頭を下げた。

 顔、引きつってるよ。


「そして私の夫のオミさんです!」

 紹介された男は晴明そっくりだった。


「安倍 晴臣です。『オミ』と呼ばれています。

 蒼真様、緋炎様。よろしくお願いします」


 にっこりと微笑むその視線に、気付いた。

 こいつ、目が見えてない――?


 言葉が出る前に明子が紹介を続けた。


「そしてご存知、竹ちゃんと黒陽様です!」


「え!? 竹様と黒陽さんも『明子の家族』なの!?」

 さっきもそう言ってるの聞いたけど、ホントのホントにそう思ってるとは思わなかった!


 ぼくら姫と守り役はこれまでにも何度も晴明の世話になってる。

 本拠地になる館を提供してもらって、世話してくれる人間をつけてくれて。

 だから竹様と黒陽さんが晴明のところにいるのも、その家族が竹様達の世話をしてるのも当然だと思ってた。

 でもまさか『家族』だと思ってるなんて!

 明子は懐が広いんだなぁ。

 だからぼくなんかも『息子』なんて受け入れられるんだな。


『家族』と紹介された竹様は「アキさん……」なんて泣きそうな困った顔をしている。

 竹様、遠慮しぃだもんね。おまけに自分のこと『災厄を招く娘』なんて思い込んで、生まれた家をすぐ出るようなひとだしね。


 黒陽さんもそんな竹様に困ってるみたい。

 仕方のないひとたちだなぁ。

 これだから『黒』のひとたちは。

 緋炎さんも反対の肩でため息をついている。


「今日は『家族』が増えたお祝いよ!

 ごちそうたっくさん作ったから。

 みんな! いっぱい食べてね!!」


 そう言って明子は次から次へと料理を出していった。

 すごい! どれも見たことない料理ばかり!


「蒼真ちゃんが知らないだろうなーって料理を集めました!」

 作ってるところもずっと肩から見てたけど、全く味の予想がつかないよ!


「これがグラタン。これがハンバーグ。これがポテトサラダ。スープはコーンスープにしました」

「こっちのドレッシングはこの生野菜のサラダにかけてね。

 四種類用意したから、食べ比べてみて!」

「サンドイッチ作ったけど、白いごはんがよかったら言ってね。用意してあるから!」

「ほうれん草のキッシュはそのままでもおいしいと思うけど、お好みでマヨネーズかケチャップをつけてみて!」


 もう、何食べてもおいしい!

 緋炎さんだけでなく竹様も黒陽さんも結界張ってくれてるから遠慮なく楽しめる!

 おいしい! うれしい! しあわせ!


「明子は天才だね! なに食べてもおいしいよ!」

「そうでしょ? アキはすごいのよ!」


 明子を褒めたのに何故か千明が自慢げにえっへんと胸を張った。

 そんな千明に明子がうれしそうで、ぼくもうれしくなった。



 おいしくて楽しい食卓だった。

 デザートのケーキもめちゃめちゃおいしかった。

 でも、気になることがふたつ。


 竹様、ほとんど食べてなかった。

 玉子サンドを一切れと、コーンスープしか食べてなかった。

 それも明子に目の前に出されたから仕方なく食べてるみたいだった。

 またごはん食べられなくなってるみたい。

 いつもの『罪を思い出して思い詰めて』かな。

 それともトモと『お別れ』したのが(こた)えてるのかな。

 なんにしても、健康状態がいいとはいえないみたい。


 そして。


 明子の夫のオミ。

 ぼくのこと、見えてない。

 ぼくだけじゃない。緋炎さんも黒陽さんも見えてない。

 視力は問題なさそう。ちゃんと料理取ってるし、他の家族と話すときは目をちゃんと合わせてる。

 でも、ぼくら守り役は見えてないみたい。

 なんだろ?



 ぼくは五千年ずっと医療に携わってきたから、具合の悪いひとが気になる。

 早期発見できたら早期治療できて、治る率も高くなる。

 だからなにか予兆があるひとを見つけたら、気になって仕方ない。

 なんの病気なのか。どんな症状なのか。どんな治療をほどこしたらいいか。


 でも病気が本人や周囲にとって繊細な問題だってことも理解している。

 だから食事中は何も気づいていないフリをして、ただオミの様子をうかがっていた。




 夕食が終わってちびっこ達の世話をしながら明子がいろんな話を聞かせてくれる。

 今日夕食に使った材料について。栄養バランスについて。食事が筋肉や血を作るという話。

 緋炎さんも「なるほどね」なんて感心してる。

 あれは? これは? と話しているうちにちびっこを寝かしつけたタカと千明が戻ってきた。


 それから「毎晩の恒例」という報告会が開かれる。

 調査の進捗状況について。その日あった出来事について。

 ぼくらの責務に関わることから日常のちょっとしたことまで、家族それぞれが報告しあっていた。

 それは『家族』というよりも『組織』という感じで、なんだか青藍(せいらん)にいたときの護衛同士の報告会みたいだな、なんて思った。



「蒼真くんと緋炎様の歓迎会だ!」とタカがお酒を持ってきた。

 竹様はその前に明子に部屋に帰らされた。

「ちゃんとしっかり寝るのよ」なんて言われているところをみると、また寝られなくなっているみたい。仕方ないひとだなぁ。


 タカはお酒を並べながら説明してくれる。

「これがビール。これがチューハイ。

 これは知ってるかな? 焼酎と日本酒。

 こっちはウイスキー。ウイスキー、知ってる?」

「知らない!」

「飲んでみる?」

「みる!」

「待て待て待て待て」


 黒陽さんが割り込んできた。

「蒼真はそこまで酒が強くないから。ビールとチューハイくらいにしておけ」

「えー!?」

 なんだよー。いろんなの試してみたいのにー!


「ビールもチューハイも銘柄によって味が違うから。

 それを試しているだけでお前はつぶれるぞ」

「酔い醒まし薬あるよ」

「そこまでするか」


「これだから青藍(せいらん)の人間は」って黒陽さんがブツブツ言うけど、そりゃ薬を試す機会があったら試すよ。薬師だからね!


 明子がおつまみも作ってくれた。

 ビール美味しい! 苦味も喉越しも最高!

 おつまみも合う! 明子は天才!!


「暴走しっぱなしじゃないか! 抑えろ蒼真!!」

「黒陽さんがいてくれるから私は楽できて助かるわー」

「緋炎! 手伝え! そのためにいるんだろうが!!」


 ワイワイガヤガヤ騒いで飲んで、楽しい夜を過ごした。

 オミは笑ってたけど、どこかさみしそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ